憲法九条の戦後史 田中伸尚 岩波新書 ★★★☆☆
憲法九条を縦糸にして紡ぎ出す戦後史。崇高な理想を掲げて出発した「痛快きわまりない」新憲法だったが、朝鮮戦争の勃発により、施行後わずか3年で踏みにじられることになる。改憲論議は今に始まったことではなく、政府はことあるごとに改憲を目論んできた。それでも、傷だらけになりながらも何とか60年間生きながらえてきた。実は、現在の日本国憲法は、大日本帝国憲法よりも既に長生きである。
沖縄はずっと蹂躙され続けてきたので例外かもしれないが、大部分の日本人は、憲法が変わっても自分の生活に直接悪影響があるとは思わないだろう。しかし、「軍事組織はある一定の実力を持ち始めると、政治的発言権を求めるようになり、さらにナショナリズムを強める特性がある」(p.54)というのは歴史の教えるところである。自分に関わりがないからといって傍観していると、いざ行動に立ち上がったときにはすべてがあまりにも遅すぎた、ということになりかねない。
一方で、現在の市民運動のあり方が魅力的でないことも確かだろう。「護憲」を呪文のように唱えるだけでは人々を惹きつけることはできない。ここで我々は、直接的には誰の得にもならないはずの環境保護という思想が、一時のブームで終わらずに定着したことを思い起こすべきである。憲法九条などというけったいなシロモノが現実に存在することのクールさを、改めて認識すべきではないだろうか。(08/02/23 読了)