ポアンカレ予想を解いた数学者 ドナル・オシア 日経BP社 ★★★★☆
コンパクト(有限)な3次元多様体の例が興味深い。
2枚の円盤を円周で貼り合わせれば2次元球面(普通の球面)ができるのと同様に、2つの(中身の詰まった)球を球面で貼り合わせれば3次元球面が得られる。正方形の向かい合う辺を貼り合わせるとトーラスができるように、中身の詰まった立方体の向かい合う面を貼り合わせると3次元トーラスができる。正12面体の向かい合う面を10分の1回転させて貼り合わせると、また別の3次元多様体が得られる。
(コンパクトで向きづけ可能な)2次元多様体は、トーラスの穴の数だけで分類できる。(結び目のあるトーラスは高次元でほどけるので、普通のトーラスと同相である。)では、3次元多様体はどのように分類されるのだろうか?
「訳者あとがき」にもあるように、本書は数学史としても非常に面白い。このくらいじっくりと書き込んであると、資料としても価値が高い。
19世紀後半から20世紀の初頭は、数学の黄金時代であり、その中心はドイツとフランスであった。本書には日本はほとんど登場せず、ポアンカレ予想の解決には日本人はあまり貢献していないようである。唯一、226頁に「東京数学会社」というのが出てくる。「会社」といっても、これは学会のことである。驚くべきことに、日本に数学会が作られたのは1877年(明治10年)であり、ドイツやアメリカよりも早いのである。(これは一般に「日本最初の学会」と言われているが、『ナイチンゲールは統計学者だった!』によれば、統計学会(「表記学社」という名前だった)の設立は明治9年で、こちらの方が早いらしい。)西欧の数学・科学が明治期の日本にどのように受容されていったか、というのは追究しがいのあるテーマだと思う。
あるいは、最大の謎は、数学は人間とは独立に存在しているはずなのに、人類の脳が数学を理解できるということかもしれない。(08/09/26 読了)