読書日記 2008年

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死刑のすべて 坂本敏夫 文春文庫 ★★★★★

死刑制度に賛成する人も、反対する人も、よく分からない人も、まずは現状を知ることが大切である。元刑務官が明かす、死刑のすべて。よくぞここまで書けたものだと思う。知らないことばかりで大変興味深く、と言っては不謹慎なのかもしれないが、一気に読んでしまった。

死刑を語るときに、しばしば抜け落ちているのは、死刑執行人(刑務官)の存在である。日本における死刑は絞首刑なので、死刑囚は恐怖と苦痛を感じることになる。それだけでなく、死刑を執行する刑務官の精神的苦痛は計り知れない。形場に連行し、目隠しをし、手錠をかけ、足を縛り、首にロープをかけて、執行ボタンを押す──。しかも、刑務官は、死刑囚を更正させる役割も果たす。まっとうな人間にしてから殺すのである。ここに、死刑という罰の重みがある。

死刑囚の人権を云々する前に、もっと守られるべき人権がある、と思う。しかし、冤罪による死刑があり得る以上、死刑廃止論にも一理ある。国家による殺人を認めるほど国家権力を信用していいのか、という問題はもっと微妙である。著者自身は、「死刑制度は存続させ、処刑の反対」というよく分からない立場を取っている。(08/10/19 読了)

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