サバイバル! 服部文祥 ちくま新書 ★★★★☆
食糧や装備をできるだけ持たずに道なき道を長期間歩く、サバイバル登山という思想。この「できるだけ」という部分はツッコミどころ満載で、その点に関する言い訳は第3章に書かれている。また、第2章を読めば、現代日本においてサバイバル登山を実践するのはかなり困難であり、一種の虚しさすら漂っていることが分かる。
それだけではない。みんながサバイバル登山を実践したら、すなわち、野草をむしって食べ、雷鳥を殺して食べ(これは著者はやっていないが)、焚き火の横で眠り、沢のそばで大便をしたら、僅かに残された自然環境などたちどころに破壊されてしまうだろう。
しかし第4章は、あらゆるツッコミを黙らせる圧倒的な迫力がある。私はヘタレ登山者だけど、著者の考えは痛いほど分かる。なぜ山に登るのかという問いに対する私自身の答えは、「自分が一個の生命体であることを思い出すため」だと思う。山には死ぬ自由がある。おまえは何なのだ、と問われれば、ホモ・サピエンス、モンゴロイドのオスだ、と答えるしかない世界。農耕が発明されるよりももっと前、狩猟採集の時代に戻ることができれば、きっとみんなハッピーになれるだろう。
山に登って、自分の小ささを知る、とよくいう。そこには二つの要素がある。一つは、山には入ることで命と自然環境の本来のボーダーラインに触れるということ。もう一つは自分にはもっと力があると勘違いしていたことに気がつくこと。言い換えれば人はふだん人間社会の力をまるで一個人の力だと思っているということだ。
(08/11/09 読了)