大往生したけりゃ医療と関わるな 中村仁一 幻冬舎新書 ★★★☆☆
肉親の死に立ち会ってみて始めて、現代日本において、人はどのようなプロセスを経て死んでいくのかが分かった。「看取らせる」ことが老人の最後のつとめだ、というのは確かにそうだと思う。
著者は、「死ぬのは癌にかぎる」という。末期癌というと苦痛のイメージしかないが、癌は治療をしなければ痛まないのだそうだ。「がん検診」なんか受けてはいけない。発見されたときは手遅れになっているが、それはつまり、それまでは痛くも痒くもなかったということに他ならない。動物は、極限状態ではエンドルフィンが分泌され、痛みを感じないようにできているのだ。確かに、抗癌剤や放射線治療は、苦痛が大きい割に効果はそれほどでもない。もっとも、今、自分が癌を宣告されたらどうするかは微妙である。
現在、ほとんどの日本人は病院で死ぬから、人間が自然に死んでいく姿を見る機会はまずない。しかし、死というのは本来、穏やかで安らかだったはずである。著者曰く、医療は「虐待」、介護は「拷問」である。胃瘻歴4年というおばあさんの、人間離れした姿の写真はショッキングだ。
この本は、繁殖を終えて賞味期限が過ぎた人間に向けて書かれたものである。けれども、まだ繁殖を終えていない人にとっても、命の有限性を自覚することは大事であろう。いつ死んでも、「色々あったけど、そう悪い人生ではなかった」と思えるような生き方をしたいものだ。(12/07/04読了 13/02/10更新)