ヒト─異端のサルの1億年 島泰三 中公新書 ★★★☆☆
膨大な文献を読み込み、30年にわたる豊富なサルの観察経験も折り込みつつ、書きたいことをたっぷり詰め込んだ、こってりした濃厚な本。地質学や生物地理学、古生物学の知識がないとつらい。お世辞にも、あまり読み易いとは言えない。
それでも、まだまだ語り残したことがあるという。
とても勉強になった。参考文献が山ほどついているのは素晴らしい。
しかし、牽強付会である。著者に言わせればヒトは「異端のサル」なのだが、著者の仮説が異端かもしれないので、割り引いて聞く必要がある。
霊長類の起源について、インド-マダガスカル起源説とアフリカ起源説(マダガスカルのレムール類はアフリカから漂流してきた)の2つの説がある。著者はアフリカ起源説はすでに否定されたように言っているが、実際には決着はついていないようだ。
少なくとも、マダガスカルにはアフリカから3回独立に哺乳類(テンレック、マングース、齧歯類)が漂流している。
著者は、歯の形状やその他の状況証拠から、既に絶滅してしまった霊長類の食性がどのようなものであったかを推測している。
著者によれば、アウストラロピテクスは骨を食べていたという。
ホモ・エレクトゥスは、重さ3kgもある巨大なハンドアックスでライオンなどを威嚇し、肉を横取りしていた「王獣」だった。
ネアンデルタールこそがホモ・エレクトゥスの正統な子孫であり、ムステリアンと呼ばれる切れ味鋭い精巧な石器で狩りをしていた。ネアンデルタールは生態系のトップに君臨していたため個体数が少なく、最終氷河期にヨーロッパ全土がシベリアのような気候になったときに絶滅してしまった。
一方、「裸のサル」であるホモ・サピエンスは、水辺で漁撈をしながらひっそりと暮らしていた。魚や貝を漁り、海草を貪るみすぼらしい類人猿、それが我々だったのだ。
・・・この辺の話はなかなか面白い。
しかし、第9章はいただけない。人はなぜ、年を取ると「日本人は特別」だと思いたがるのだろうか?
図9-2はあくまでもミトコンドリアを使って描かれた系統樹であり、これに基づいて日本人の起源を議論されてもなぁ・・・。
言語の起源をイヌに求めるのもブッ飛んでいる。
マダガスカルのレムール、ボルネオのオランウータン、アフリカのゴリラやチンパンジー。本書を読んで、色んな霊長類に会いに行きたくなった。
著者はまた、東大紛争の際に学生隊長として安田講堂に立てこもり、逮捕されたことがあるというから実にアツい。(16/09/25読了 18/02/27更新)