香料の道 山田憲太郎 中公新書 ★★★★☆
小著ながら重厚で、かつ資料的価値も高い。本書が出版されたのは昭和52年で、昔は新書でもこのくらい骨があった。大変勉強になった。
ただ、決して読みやすい本ではない。
乳香と没薬、肉桂(シナモンとカッシア)、胡椒、アンバル(龍涎香)、丁子などのスパイス、そして沈香ついて、東西交流史の視点から広く解説してある。(このラインナップの中に麝香がないのが不思議だが。)
本書の主な舞台は、アフリカ東部のソマリランド、「幸福のアラビア」と呼ばれたアラビア半島南部、そしてインドである。これはヨーロッパが歴史の表舞台に現れる以前の物語なので、ロマンに溢れている。
紀元前後のローマ帝国ではすでに、インドの胡椒が大量に消費されていたという。人類は古来よりずっと、「海のシルク・ロード」(香料の道)を通じて異民族と交易を行ってきたのだ。
一方で、大航海時代のヨーロッパ人は、胡椒をはじめとするスパイスを求めて大海原に漕ぎ出していき、その結果、世界の秩序を徹底的に破壊した。こうしてみると、大航海時代以降のヨーロッパ人の野蛮性は際立っている。
15世紀末に新大陸が「発見」されるまで、インドネシア東部のモルッカ諸島は世界の最も端にある僻遠の地だった。丁子(グローブ)は、モルッカ諸島からしか産しなかった。
モルッカ諸島はニューギニアのすぐ東にあるのに、この巨大な島が外の世界にまったく知られていなかったのは不思議な気がする。
ところでこの本、古本市で偶然見つけて新品同様のものを数百円で購入したのだが、Amazonでは中古に1万円以上の値が付いているらしい・・・!(18/05/17読了 18/06/01更新)