読書日記 2022年

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旅する力 ★★★★☆ 沢木耕太郎 新潮文庫

ようやくコロナ禍も明けようという頃、沖縄に向かう機内で読み始めて、なぜか泣きそうになった。

旅とは何か。

〈家ヲ出デテ、遠キニ行キ、途中ニアルコト〉

序章がとても良い。 ある女性が『赤毛のアン』が好きで、その足跡を辿ろうと思ってカナダのプリンス・エドワード島を巡るパックツアーに参加したとする。たとえそれがお仕着せのツアー旅行だとしても、それもまた立派な旅である。
バックパック一つで、ヒッチハイクで移動する貧乏旅行が偉いわけではない。旅に優劣はないのだ――というふうに解釈した。

でも著者は、そうは思っていないのかもしれない。
「旅には適齢期がある」ということを、繰り返し言っている。
本書は、26歳で『深夜特急』の旅に出た著者が、還暦を過ぎ、郷愁をもってかつての旅を振り返ったものだ。

私もご多分に漏れず、20代半ばに『深夜特急』を貪るように読んだし、猿岩石ブームもリアルタイムで経験した。
でも結局、長い旅に出ることはなかった。自分はそういうことをする人間でない、と思い込んでいた。
それで良かったのだと思う。
もしそんな刺激的な旅をしていたら、その後の旅はすべて色褪せて見えることになっただろうし、今も旅を続けていることはなかったかもしれないから。

異国には旅が向こうから迫ってくる土地とこちらから向かっていかなければならない土地とがある。

こういうことをサラリと書ける著者は、本当に文章が巧い。(22/11/17読了 24/01/22更新)

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