1998年 72冊

(★〜★★★はお薦め度

「西域をゆく」 井上靖・司馬遼太郎 文春文庫 ★★
     新彊ウイグルは、世界で最も訪れてみたい憧れの地だ。('98.12.28)
「三十一文字のパレット」 俵万智 中公文庫 ★★
     D論執筆中の壊れかけたココロに、辛うじて人間性のカケラが残っていたとすれば、この本のお蔭かも知れない。('98.12.28)
「街道を行く21 神戸・横浜散歩、芸備の道」 司馬遼太郎 朝日文庫 ★★
     時空の旅人、司馬遼太郎。香り高い文章と、このスケールの大きさは、ちょっとした精神安定剤だった。('98.11.26)
「終りなき日常を生きろ」 宮台真司 ちくま文庫 ★☆
     思えば、我々が子供だった頃は、「21世紀」というコトバが最期の輝きを放っていた時代だった・・・。筆者の分析は納得できるけど、「終りなき日常」のディストピアを生きる処方箋は脱力して「まったりと」生きることだというのは、余りにも救いがない。停滞の21世紀を生きるための処方箋は、ありきたりだけど、共同体と生身の自然感覚を恢復することしかないのでは?('98.11.15)
「縦走路」 新田次郎 新潮文庫 ★★
     ストーリーはどうってことないけど、その精密な自然の描写につい引き込まれてしまう。('98.11.9)
「1973年のピンボール」 村上春樹 講談社文庫 ★☆
     僕たちが歩んできた暗闇を振り返る時、そこにあるものもやはり不確かな「おそらく」でしかない。現在とても僕たちの体をただすり抜けていくだけのことだ。そう、現実世界だって、この物語ほどのリアリティーもないのかも知れない。('98.11.6)
「最長片道切符の旅」 宮脇俊三 新潮文庫
     マニアックすぎてつまらんと思いつつ、路線図とガイドブックを見ながら私も旅をした。この当時(20年前)は日本にもまだまだ多様性が残されてたみたいだけど、今や一色に塗り潰されちまった、のだろうか。('98.11.1)
「風の歌を聴け」 村上春樹 講談社文庫
     全くリアリティーのない登場人物たちが風のように通り過ぎていって、一瞬の切なさ以外は殆んど何も残らない。('98.11.1)
「ポケットに名言を」 寺山修司 角川文庫 ★★★
     人生というのは、いつ始まるのだろうか?自分のなかに棲んでいる「もう一人の自分」との友情が成立ったときか?とすると、人生はまだ始まったばかりだ・・・。
     ときには言葉は世界全部の重さと釣合うこともある───
      「幸福とは幸福をさがすことである。」  ('98.10.26)
「イニュニック[生命]」 星野道夫 新潮文庫 ★★★
     口絵の写真を見よ。地球は、本当に美しい星だ・・・!
     自分と、自分の親と、そのまた親と・・・という具合に一列に並んだとき、少し目を凝らせばうっすらと顔を読み取れる7、80人先の男は、二千年前の弥生時代を生きていた───。こうして、人間の歴史の短さを感じることのできる著者の人生もまた偉大である。('98.10.21)
「お父っつあんの冒険〜95年版ベスト・エッセイ集〜」 日本エッセイスト・クラブ編 文春文庫 ★★☆
     干涸らびそうな心に潤いを与えてくれる良質のエッセイ。うまいもんだ!どれも印象的だが、主婦(シロート)の作品が特に良かった。('98.10.20)
「アフリカを食べる」 松本仁一 朝日文庫 ★★
     現代アフリカもまた、未知なる世界だ。気軽に読めるエッセイだが、重さがないのが物足りなかった。('98.10.10)
「きたぐにの動物たち」 本多勝一 朝日文庫 ★★
     広大なる北の大地、アイヌモシリ、Hokkaido island は、ほんの100年前まで原始そのままの世界だった。今や無残にも日本化されてしまったが、ここは明らかに「日本」ではない・・・。('98.10.9)
「限りなく透明に近いブルー」 村上龍 講談社文庫
     内容は限りなく破滅的だが、文体は透明で美しい。('98.9.23)
「書を捨てよ、町へ出よう」 寺山修司 角川文庫 ★★
     マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや。これが18歳の作品。天才だ!悠々たるかな天壌、遼々たるかな古今、鬱々たるかな人生・・・万有の真相は唯一言にて悉す。曰く「不可解」・・・('98.9.21)
「不思議の国のアリス」 L.Carroll 矢川澄子 訳 新潮文庫 ★☆
     原著を読まないと殆んど意味がない。('98.9.19)
「罪と罰 (上)(下)」 Ф.М.Достоевский 新潮文庫 ★★★
     こんなに面白いとは思わなかった!これが江戸時代に書かれたとは信じられない!('98.9.16)
「人生論」 武者小路実篤 岩波新書
     この本は昭和13年に書かれた。その時代背景を思うと、人類の未来に対する無邪気な空想は奇妙に映る。しかし多くの部分は、60年の歳月を超えて、この不気味な世紀末にこそ読まれるべき真理を含んでいる。('98.9.10)
「老人と海」 E.Hemingway 福田恆在 訳 新潮文庫
     新潮文庫の100冊・海外名作シリーズ。しかしそれほど印象に残らなかった。('98.9.8)
「二十四の瞳」 壺井栄 新潮文庫 ★★★☆
     これぞ不朽の名作!不覚にも、ラスト2頁で涙を流してしまった。('98.9.7)
「20代の私をささえた言葉」 加藤諦三 PHP文庫
     普段、このテの本は手に取ることもしないのだが。みんなやっぱり苦しいのだ。人生の第2ラウンドは、厳しさ、か。('98.9.5)
「旅人」 湯川秀樹 角川文庫 ★★★
     旅人。この題名がいい。そして、全篇に漂う厭世観がまたいい。私の憧れていた世界はこれだったのかも知れない・・・。それにしても、昔の人のこのスケールの大きさはどうだろう。人類は、次第に均一化され、どんどん小粒になってゆく。('98.9.5)
「かもめのジョナサン」 R.Back 五木寛之 訳 新潮文庫 ★☆
     ノーマルなときに読む本ではないと思うが、不思議なことに、この本のお蔭でかなりヤバい精神状態から脱出できた、のか?そして、気付くと夏が終わっていた・・・。('98.8.31)
「ルポルタージュの方法」 本多勝一 朝日文庫 ★☆
     新聞記者という職業が限りなく魅力的に思えてきた。('98.8.26)
「青春漂流」 立花隆 講談社文庫 ★★★
     あの孔子でさえ、40まで惑い続けた。迷い悩むことは青春の特権である!でも、この本に登場する11人の若者の生き方は余りにも特殊すぎて参考にならなかった(特に、鷹匠)。('98.8.21)
「深夜特急 (1)〜(6)」 沢木耕太郎 新潮文庫 ★★★
     最近、私の心の中に眠っていた「アジア放浪説」がムクムクと頭を擡げ始めたので、かねてより購入してあったこの本を一気に読んだ(逆ではない)。('98.8.18)
「たった一人の生還」 佐野三治 新潮文庫 ★★★
     6人の仲間が次々と死んでいくくだりは、淡々と描かれているだけに却ってリアリティーがある。この絶望的な状況に較べれば、人生におけるどんな逆境も乗り越えなければいけないと思わせる説得力がある。('98.8.3)
「アメリカ50州を読む地図」 浅井信雄 新潮文庫 ★☆
     今まで新大陸には余り興味がなかったが、そうも言っていられなくなってきた。読み終えるまでにどエラい時間がかかった。('98.8.3)
「長谷川恒男 虚空の登攀者」 佐瀬稔 中公文庫 ★☆
     小説よりもドラマティックな人生。最後はみんな、山で死んでしまう。('98.7.18)
「深い河」 遠藤周作 講談社文庫 ★★
     最初から最後まで、4時間ほどで一気に読んだ。思わず泪の出てくる場面もあったけど、読み終えた後は却って暗い気分になった。「愛とは何か」とかいうシリアスなテーマは、今の私にはあまりにも重い・・・。('98.7.5)
「絶対音感」 最相葉月 小学館 ★★★
     「昔、合唱をやっていた頃、こんな奇妙な能力を持つナゾの人種が周りにいたっけなぁ」とか思いつつ読み進めていくと、やがて「絶対音感とは何か」という問いを超えて全てを包み込んだ感動のラストに出会う。素朴な疑問から出発して、最後は筆者自身も予期しなかった世界に辿り着くという、不思議な魅力を持った本。('98.7.1)
「奪われし未来」 T.Colborn, D.Dumanoski, J.P.Myers 翔泳社 ★★
     「環境ホルモン」(変な日本語だが)ブームの火付け役となった本。現代文明から最も遠く離れた極北の地に暮らすイヌイットの体内に最も高濃度の残留性化学物質が蓄積しているという事実には、戦慄を覚える。この暮れなずむ20世紀は、何と異常な時代だったのだろう。('98.6.23)
「こころの処方箋」 河合隼雄 新潮文庫 ★☆
     「ものごとは努力によって解決しない」など、フムフムと頷きながら読んでしまう55条の処方箋。('98.6.18)
「電脳進化論」 立花隆 朝日文庫 ★★
     立花隆の文章はごく自然に頭に入り、非常に理解しやすいのだが、イマイチ学問の香りがしない。でも、その業界のことが一通り分かった気になるので、まぁいいか・・・。('98.6.10)
「みんな山が大好きだった」 山際淳司 中公文庫
     あまりにも安っぽい文章には興ざめするが、一人で山に登りたい気分にさせてくれる。一瞬の、生のきらめきを感じるために?('98.6.4)
「蒼氷・神々の岩壁」 新田次郎 新潮文庫 ★★
     山を舞台にしていても、結局男と女の物語になるあたり、いかにも小説っぽくて面白かった。所詮、山岳小説は優れた実記録にはかなわないのだろうか?('98.6.4)
「関ヶ原(上)(中)(下)」 司馬遼太郎 新潮文庫 ★★
     これも予想通り面白く、病床で(!)一気に読んだが、司馬遼太郎もちょっと飽きてきたかも。それにしても家康公は憎たらしく描かれていた。('98.5.19)
「若き数学者のアメリカ」 藤原正彦 新潮文庫 ★★★☆
     勇気と希望を与えてくれる素晴らしい本。こういう人に私はなりたい。('98.4.19)
「学問の創造」 福井謙一 朝日文庫 ★☆
     若い人は是非読んで下さい。私はもう若くないが・・・。('98.4.19)
「複雑系」 M.Waldrop 新潮社 ★★★☆
     ベストセラーはブームが去ってから批判的に読む。主義だったが、この本は評判に違わず実にexcitingだった。それどころか、奇妙な暗示にかけられる魔力的な本である。('98.4.12)
「日本語ウォッチング」 井上史雄 岩波新書 ★★
     これぞことばの生態学。ここにも複雑系的世界が現れる。('98.4.3)
「読書のすすめ」 岩波文庫編集部編 岩波文庫 ★★☆
     37人の碩学による読書のすすめ。イヤハヤ、世の中には凄い人がいるものだ。人間が一生の間に読める本は高々数千冊であることを考えると、安っぽい文章が大量生産・大量消費され、情報の洪水の中で溺れそうになっている我々は、活字に飢えた経験を持つ人よりむしろ不幸なのかも知れない。('98.4.3)
「街道を行く43 濃尾参州記」 司馬遼太郎 朝日文庫 ★☆
     最後まで「街道を行く」の真空地帯だったここ尾張名古屋の地は、やっぱりツイてなかった。まぁ、25年に渡るシリーズの最終巻という栄誉に浴したと言うべきか・・・。('98.4.3)
「不実な美女か貞淑な醜女か」 米原万里 新潮文庫 ★★
     小生、病を患って2週間の入院生活を余儀なくされた。この醜悪なタイトルの本は通訳という職業に関するエッセイなのだが、手術の翌日、懸濁する意識の中で読んだ。かなり笑えるので、縫ったところが開きそうになった。('98.4.3)
「国盗り物語(一)〜(四)」 司馬遼太郎 新潮文庫 ★★★
     司馬遼太郎の手にかかると、歴史上の人物がなぜこうも生き生きと動き出すのだろう。もう中毒になってしまった。この本を読み終えたまさにその日、岐阜に赴き金華山に登った。なるほど、これより南に山は一つもなく、濃尾平野が一望のもとに見渡せて、「美濃を制する者は天下を制する」という言葉が実感できる。世界は、歴史の重層性の上に成り立っているのだ!('98.3.9)
「短歌の世界」 岡井隆 岩波新書 ★★
     やわらかな春の陽差しの下でこの本を読んでいると、透明な文体だな、と思う。これが詩人というものか。('98.3.4)
「俳句という愉しみ」 小林恭二 岩波新書 ★☆
     やっぱり俳句は短歌より難しそう(とっつきにくそう、という意味)。理論物理学者で、元東大総長の有馬朗人先生も登場する。('98.2.7)
「豊かさの精神病理」 大平健 岩波新書 ★★
     今どきこんなヤツいるんかと思いながら読んだけど、豊かだからといって心が貧しいとは限らないし、貧困は心をも貧しくする、という指摘はなるほどと思う。('98.1.29)
「短歌パラダイス」 小林恭二 岩波新書 ★★★
     意外にも、ツボにはまった!今まで着目したことのなかった世界なので、非常に新鮮だった。俺も早速挑戦してみよう、と思ったけど、
      情緒のないコンピューターに囲まれて、短歌なんか作れるわけない
    か・・・。('98.1.26)
「ハッブル望遠鏡が見た宇宙」 野本陽代、R.Williams 岩波新書 ★★
     いちばん古くて、そして結構新しい学問、天文学。成程、宇宙のロマンの前には他のどんな科学もかなわないのかもしれない。('98.1.19)
「こころの声を聴く -河合隼雄対話集-」 河合隼雄 ほか 新潮文庫 ★☆
     対談集はさらっと読めるからいいよね。('98.1.12)
「外国語上達法」 千野栄一 岩波新書 ★☆
     言語学者の書いた本なので興味深く読んだ。「教養としての語学」がいかに身に付かないかが分かった。('98.1.9)
「兎の眼」 灰谷健次郎 新潮文庫 ★★
     えーはなしやなー。が、あまりにも前向きで、真摯で、ひたすらで、まっしぐらな登場人物たちには少々物足りなさを感じてしまう。('98.1.6)
「坂の上の雲(一)〜(八)」 司馬遼太郎 文春文庫 ★★★
     日露戦争にまつわる明治の群像を描いた長い長〜い物語。俺も、坂の上の青い空にかがやく一朶の雲をみつめて、坂をのぼってゆこう。('98.1.6)


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