Home > 世界中の山に登りたい! > 大雪山(ヌタㇷ゚カウㇱペ) 黒岳〜北鎮岳〜旭岳

現在は「大雪山」などという味気ない和名で呼ばれているが、かつての地図にはアイヌ名で「ヌタクカムウシュペ」と表記されていたそうである。
この語源に関しては、正確なことはよく分からないが、一つの有力な説は nutap-ka-us-pe(ヌタㇷ゚カウㇱペ)である。nutapはアイヌ語で「川の湾曲内の土地」、kaは「〜の上」、usは「そこに群生する」、peは「〜する者」という意味であり(参照:知里真志保『地名アイヌ語小辞典』)、全体では「川の湾曲部内にいつもいるもの」というような意味になるらしい。
もっともアイヌの人たちは、一つ一つのピークには名前を付けなかったらしく、間宮岳(間宮林蔵)、桂月岳(大町桂月)、小泉岳(小泉秀雄)という風に、明治時代の人名が付けられているのも北海道ならではである。エヴェレスト、フィッツ・ロイ、レーニン峰みたいなものであろう。

【第0日】

当初は、

0日目:旭岳温泉泊
1日目:旭岳→北鎮岳→黒岳→黒岳石室(泊)
2日目:黒岳石室→北海岳→白雲岳→小泉岳→緑岳→大雪高原温泉

というプランを考えていた。
しかし、毎度のことながら、出発前にシュラバとなり、準備時間が取れなった。フライトの10分前に、既に締め切られていた空港のカウンターに駆け込むという有様だった。
0日目にガスボンベや食糧を調達する必要があったが、午前中は疲労のため動けず、その日の内に旭岳温泉に到達することが不可能になった。西日本で猛威を振るった台風5号が日本海へ抜けたあと、北海道に再上陸しそうな気配だったこともあり、プランを縮小して0日目は旭川泊まりとした。1日くらい休んでからでないと、山に入る気力も湧かない。もう、攻撃的な登山はできなくなってしまった。

夕方に旭川に着く。ガスボンベは飛行機に持ち込めないので現地で調達する必要があるのだが、駅の観光案内所に用意があった。
旭山動物園がブレイクしてしまったために旭川のホテルはどこも満室で、バスで10分ほどの旅館の最後の一室が空いているのみだった。でも、一泊5000円、朝食が500円と格安だった。
宿を確保した後、川村カ子トアイヌ記念館を見学。ここで私は、生まれて初めてアイヌの方(館長さん)に会うことができた。そう遠くない昔、この辺りはアイヌコタンだったそうだが、今や当時の姿を留めるものはこの記念館だけである。

川村カ子トアイヌ記念館①

川村カ子トアイヌ記念館②

川村カ子トアイヌ記念館③

台風は温帯低気圧に変わったようだが、雨はずっと降り続いていた。チェックイン後、近くのスーパーに買い出しに行く。その日の夜は、雨が降りしきる中、駅前で夏祭りが催されていたようだったが、もはや街に繰り出す余力はなかった。
近くの定食屋で食べたジンギスカン定食は予想外に美味しかった。

【第1日】

09:15 旭川駅発(バス)
11:40 層雲峡駅発(ロープウェイ)
11:50 五合目
12:45-13:10 七合目
14:40-15:25 黒岳山頂
15:50 黒岳石室(泊)

翌日、朝一のバスで層雲峡へ向かう。ロープウェイで5合目へ。
そこから7合目までリフトが架けられているが、この日は黒岳まで行くだけなので、敢えて歩いて登ることにする。
荷物が重い。天気は曇り、非常に蒸し暑い。7合目の売店でヒグマよけの鈴を購入。1合ごとに標識があるのでそんなに疲れない。
黒岳頂上に着くと、陽が差し始めた。右手には、鳥の形の残雪をまとった北鎮岳、御鉢の向こう側には旭岳が頭を出している。

黒岳山頂

黒岳山頂より:旭岳(正面)と北鎮岳(右)

鳥の形の残雪をまとった北鎮岳

そこから石室まではすぐである。意外なことに、宿泊客は僅か10人ほどしかいなかった。2階部分を独占的に使用することができた。
荷物を置いて、すぐ近くの桂月岳に登りに行く。ここで、愛らしいキタキツネの子供に出会った。急いでシャッターを切るが、一向に逃げる気配もなく、呑気にあくびをしている。

キタキツネの子供①

キタキツネの子供②

キタキツネの子供③

ハイマツに覆われた桂月岳

山頂に着いた。ヨセミテのハーフ・ドームのような形をした黒岳の隣に見えるのは、北大雪の山々(武利岳?)だろうか。いつしか、空は雲一つない快晴になっていた。明日も期待できそうだ!

桂月岳山頂

桂月岳山頂より東側:黒岳・北大雪の山々

桂月岳山頂より南側:黒岳石室方面(左から烏帽子岳・白雲岳・北海岳)

桂月岳山頂より南西側:北鎮岳(右)・旭岳(中央)

可憐な高山植物

小屋に戻り、夕食の支度を始める。メニューは、アルファ米、レトルト牛丼、インスタントの味噌汁である。旨い!漬け物を持ってくるべきだった。
やることがないので、6時半就寝。7時半、小屋に泊まっているオヤジの喧しい喋り声に起こされる。外に出ると、夕焼けの残照で空が紫色に輝いていた。

【第2日】

05:45 黒岳石室発
06:35-06:55 御鉢平展望台
07:25 北鎮分岐
07:45-07:50 北鎮岳山頂
08:20 中岳
08:30-08:40 中岳分岐
09:05 間宮岳
10:25-10:45 旭岳山頂
11:55 ロープウェイ姿見駅
12:45 姿見駅発(ロープウェイ)
14:35 旭岳温泉駅発(バス)
18:30 旭川駅発(函館本線)
20:08 札幌駅発(千歳線)
20:49 千歳駅着

3時半、気合いで起床。ガサゴソ支度をして外に出ると、上空はぶ厚い曇に覆われていた・・・。ガックリ。
再び桂月岳の頂上へ行くと、既に先客が2人いた。小屋に泊まっているのは老人ばかりで、誰もご来光を見には来なかったようだが、テント泊の若者がその後も何人かやってきた。ちょうど日の出る方角には雲はなく、やがて山肌に沿って赤い光の筋が現れた。

北大雪方面からの御来光の瞬間

赤く染まるニセイカウシュッペ山

朝日を浴びる凌雲岳(左)・上川岳(右)

小屋に戻って朝飯を食う。コーヒーとあんパン、ソーセージ。
のんびりしすぎたため、出発が6時近くなった。まぁ歩いているうちに天気は回復するだろう。
高山植物の写真を撮りながらタラタラ歩く。植物の種の同定ができるようになれば、きっと風景が違って見えるはずだ。

チングルマ Geum pentapetalum

エゾコザクラ Primula cuneifolia cuneifolia

しばらく行くと、グランドキャニオンを流れるコロラド川を彷彿とさせるような、蛇行する石狩川の源流が眼下に望まれる。大雪山系第2の高峰、北鎮岳の頂は雲の中にある。

御鉢平展望台より

凌雲岳(左)、桂月岳(中)、黒岳(右)

ちょっとスリリングな巨大な雪渓を越えて、濃い霧の中に入る。視界はほとんどないが、道は過剰なほどに整備されており、黄色いペンキを忠実に辿っていけば迷うことはない。
北鎮岳への分岐点には大量のザックがデポされていた。私も荷物をここに残して、空身で頂上を目指す。
山頂に到達するも、何も見えない。10人ほどの若者のパーティーが去ったあと、一瞬だけ雲が途切れ、鋭いピーク(愛別岳?)が見えたが、それは瞬く間に幻と消えた。しばらく粘ってみたが、雲が途切れるどころか、やがて細かい雨が降り始めた。

北鎮岳山頂より、一瞬姿を現した愛別岳の尖峰

次第に雨脚が強くなる。全くピークらしくない中岳と間宮岳を通過すると、しばらく下り坂が続く。
鞍部のところで一休みし、いよいよ旭岳への登りにかかる。火山礫の急斜面をダイレクトに登る。ゴールがどこにあるか全く見えない。
しかし、意外にあっけなく、最終目的地である北海道の最高点、旭岳山頂(2,290m)に到達。「大雪山に登って山の大きさを知る」と言うけれども、視界はゼロ。

雨の旭岳山頂

ロープウェイから往復する人が多く、ここは流石に大勢の人で賑わっている。中高年のツアー軍団が標識の周辺にタムロしていてウザイことこの上ない。みんな台風一過で晴れると思ったんだろうけど、ご愁傷様デシタ。
山頂で待つほどに、雨はますます強くなるばかり。せっかく大量の水を担ぎ上げてきたのに、虎の子のカップラーメンも食べずにさっさと下山を開始する。ガラガラの急斜面を駆け降りる。姿見の池は晴れているればさぞかし綺麗だったろうに、レンズが曇ってしまい撮影すらままならなかった。
ロープウェイの駅に着いたときにはずぶ濡れになっていた。駅で休んでいると、やがてドシャ降りになった。

ロープウェイで旭岳温泉に降りる。白樺荘というユースホステルで温泉に浸かり、1日4本しかないバスで旭川に戻る。
この日の内に東京に帰るという予定にするとあまりにもリスキーなので、更に半日休暇を取って、明日の朝一の飛行機で帰ることにしてあった。
この日は千歳泊まりだったので、2日前に見損なった旭川の街を徘徊する。しかしながら、実は見るべきものなど何もなかったのだ。買い物通りを北上していくと、4条あたりを境に人影が疎らになり、7条に至ると閑古鳥が啼いていた。どこに特色があるのかよく分からない、旭川ラーメンとかいうのを食べてこの地を後にした。
千歳は輪をかけて何もなく、駅前のCDレンタル屋が最大の集客率を誇っていた。ホテルの部屋で靴や雨具を洗濯した。
翌朝、疲労を引きずりながら、千歳空港でご当地キティちゃんを子供のお土産に買い漁り、朝一のエア・ドゥに乗り込む。
──東京は暑かった。羽田空港からオフィスに直行すると、瞬時に、「終わりなき日常」へと引き戻されて眩暈がした。こうして、俺の短い夏休みはあっけなく終わった。嗚呼、もっとゆっくり旅がしたいよぅ・・・。(07/08/09)

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