Home > 世界中の山に登りたい! > 御在所岳
すっかり夜型になってしまった生活パターンを矯正するため、突如思い立って、前日一睡もしまいまま午前6時に家を出た(こんなんばっかりや!)。
御在所岳には表道・中道・裏道などいくつもの登山道が付けられている。
中道は、ガイドブックに「アルペンムード満点」と喧伝されているだけあって、なるほど面白いコースだった。
巨大な花崗岩を削って強引に付けられた道を登っていくと、どうしてこういう形に浸食されたのかと自然の造形に感嘆させられる奇岩が出現する。
巨石群
スリリングな鎖場を越え、「徹夜明けには流石にこたえる」と弱音を吐きそうになるころ、ふいに目の前によく整備された舗装道路が現れる。
山頂付近は完全に遊園地化されており、レストランやカモシカ・センターなどという醜悪な建築物がある。
観測所のある朝陽台から山頂までは僅かの距離なのだが、直線コースはカラフルなリフトによって占領されており、歩行者は退屈な舗装道路を大まわりして30分以上も歩かなければならない。
山頂は流石に涼しく、蜻蛉が乱舞していた。
空はどんよりと重く、展望は全く利かない。ガスが発生してきたので下山を開始する。
下山に使った裏道は、せせらぎの聞こえる歩きやすいコースである。こういう道がいい。
せせらぎは子守歌に聞こえ、心地よい眠りに引き込まれそうになり時折意識が朦朧とする。
「藤内壁出合」という看板に出くわす。遥か遠方の垂直な壁面に人が張り付いている。そう、ここは東海随一(たぶん)のロック・クライミングの練習場なのだ。
やがて、「天狗の踊り場」という洒落たネーミングのスポットがある。
実はそこは、クライマーたちの墓地であった。クライミングの練習中に滑落した高校山岳部員や、ヒマラヤやカラコルムで消息を絶った東海地方の山岳会のメンバーが眠っているのだった。
遭難死するときはどんな気分であろうか、などと呑気なことを考えながらゆっくりと下山していく。
最後に、登山道から離れて階段を5分間ほど下っていくと、蒼滝という美しい滝があった。結局、自然の美しさにかなうものはないのだ。
高級そうだが安っぽい外見の湯ノ山温泉のホテル街に再び戻り、閑古鳥の鳴くとある旅館で温泉に浸かった。
蒼滝
御在所岳は、その変化に富んだコースといい、岩肌を露わにした特徴的な山容といい、晴れていれば見えたであろう山頂からの展望といい、名山として推すに相応しい山である。
しかし、名古屋から近すぎたこと、山頂付近がなだらかな地形だったことが災いして、「観光開発」という昭和的な滑稽な発想のもとに醜く姿を変えられてしまった哀れな山であった。