Home > 世界中の山に登りたい! > グランドキャニオン -プラトー・ポイント往復-
旅は、一つの作品である。与えられた時間と空間から、どのような物語を紡ぎ出すことができるか。
だから私は、絶対にツアー旅行には参加しない。
そして、旅は一人でなければならない、とも思う。
当初の予定では、グランドキャニオンに2泊、モニュメント・バレーに1泊するつもりだった。しかし結局、グランドキャニオンに3泊してしまった。でも、これで良かったのだと思う。
1ヶ所に3日間滞在すると、やっとその場所の良さが分かってくる。
モニュメント・バレーについては、アメリカ先住民の文化と言語をもっと勉強してから、改めてゆっくりと訪れるつもりだ。
グランドキャニオンというと、赤茶けたガケを上から眺めるだけだと思うかもしれないが、実は、谷底を流れるコロラド川まで下りていくことができる。
ただし、サウスリムから谷底まで1日で往復しようとすると、命を落としかねない。トレイル中に何度も警告が出てくる。その警告が冗談でないことは、実際にこのトレイルを歩いてみると分かる。暑すぎるのだ。
コロラド川まで下りたい人は、谷底にある Fantom Ranch に一泊しなければならない。ところが、そこの予約を取るのが至難の業で、2年先まで一杯なのだという。
そんな訳で、Plateau Point までの往復というのが、グランドキャニオンにおける最も過酷な日帰りトレイルなのである。
実際、これは過酷だった。技術的に難しいところは何もないし、距離も大したことはない。馬でも通れる、バカみたいな道がダラダラ続くだけである。
ただの体力勝負なのだが、必要とされるのは、脚力ではない。過酷な環境に耐える生命力である。
行きが下りで帰りが登りというのは、精神的にはかなりキツイ。山登りならば、頂上に着いてしまえば、基本的にはあとは下るだけだ。しかし、谷を下っていく場合、帰りに倍の時間と体力を要するので、常にセーブしながら歩かなければならない。
グランドキャニオンでは、3日間ずっとテントに泊まっていた。
テント泊にした理由は、アメリカの国立公園というのは慢性的に宿が不足していて、しかも高いからだ。
ホテルは旅行代理店が押さえてしまっているらしく、1ヶ月くらい前に自力で予約を取ろうとしても、到底無理である。
とはいえ、日本とは違って、アメリカでのキャンプはとても楽なのだ。各人のテントサイトはとても広く、しかも駐車場付きなので、車で直接乗り付けることができる。トイレやシャワーも完備されていて、慣れれば実に快適だ。しかも、1泊わずか18ドルだった。
車で行ってテントに泊まり、長期間滞在する。これが、グランドキャニオンの、もっと言えばアメリカの国立公園の、正しい歩き方なのではないだろうか。
8時にレンタカーを借りることになっていたが、7時55分起床。
ホテルのレンタカーのカウンターに行くと、4日間で311ドルもかかるという。電話で聞いたときは211ドルと言っていたような気がしたが、疲労のため交渉する元気はなかった。探せばもっと安いところもあるはずだが、面倒くさいのでそのまま借りることにする。でもいい車だった。
荷造りをして、10時、テンペの Holiday Inn を出発。フラッグスタッフまで、サワロ・サボテンの群生するI-17をひたすら北上する。
12時20分、フラッグスタッフ到着。Denny's に入り、Philly sandwich を食べる。ちなみに Philly sandwich というのは、フィラデルフィア名物の、焼き肉とチーズを挟んだホットドッグのことである。
US180に入ると景観が変わり、緑に覆われた荒野が広がる。
US180がAZ64に合流するところまで来れば、もうグランドキャニオンまではすぐそこだ。土産物屋が軒を連ね、観光地の風情である。国立公園のゲートの手前で渋滞が発生。
15時50分、無事にゲート突破する。車の場合、入場料は25ドルで、1週間有効である。
取りあえず直進して、Mather Point で初めてグランドキャニオンと対面する。しかし、運転による疲労のためか、さほど感動しなかった。ここには観光客がウジャウジャいた。
テントサイトを探すのに大いに手間取った。車で自分のテントのすぐ横までアクセスできるとは知らず、general store の駐車場に車を停めて、荷物を担いでウロウロする。システムが分かってしまえば簡単なのだが…。
テントサイトは、一番奥の198番だった。
まだ右も左も分からない状況だが、明日は Plateau Point まで往復する予定なのだ!
一服する暇もなく、食糧の調達に出掛ける。general store で水2リットル、グレープフルーツジュース、ドライフルーツ(アンズ)、ビーフジャーキー(低ナトリウム血症になるのを防ぐため)、チョコレート、リンゴ1個、ベーグル(6個入りしかなかった)、サンドイッチを購入。
テントに戻るともう真っ暗だった。テントの中で買ってきたサンドイッチを囓るが、一向に食欲が湧かない。
20時25分、シャワーも浴びずに寝る。
テントで寝てみると分かるのだが、森の中というのは実に様々な音が聞こえる。小動物がその辺を囓っているらしく、ひっきりなしにガサガサいう音がして、気になって眠れない。
グランドキャニオンの夜は寒く、氷点下にまで冷え込む。シュラフの首の部分から冷気が入り込み、1時間おきに目が覚める。
4時半起床。とういか、小鳥の囀りが喧しいので自動的に覚醒した。
日の出は5時14分なので、まだ真っ暗だ。気合いでシュラフから出る。寒い。
公園内の地理がサッパリ分からないが、適当に運転していたら Yapapai Point という日の出スポットに着いた。ちなみに Yapapai というのは、アメリカ先住民の tribe の名前である。
ここで日の出を見学。当然のことながら、太陽が顔を出すと急に暖かくなった。しかし、悠長に日の出なんか見ている場合ではなかったのだ…。
一旦テントに戻り、ザックに荷物を詰めて、6時15分テント発。バスの路線が分かりにくく、Bright Angel Trail のトレイルヘッドに到着したときにはもう7時だった。ミュールツアーの一群がいる。
ちなみにミュールとは、ウマとロバの合いの子である。このツアーも同じルートを辿って Plateau Point まで往復する。ミュールは悠然と歩いていくが、意外に速い。徒歩よりもずっと速い。
コースタイムは以下の通り。
07:00 trailhead発
07:45-07:50 1.5 mile resthouse
08:25-08:30 3.0 mile resthouse
09:00-09:25 Indian Garden
10:05-10:30 Plateau Point
11:10-11:20 Indian Garden
12:30-13:45 3.0 mile resthouse
14:45-15:35 1.5 mile resthouse
16:40 trailhead着
最初のうちはトレイルは日陰に入っていたので、順調に下っていった。楽勝かと思われた。
Indian Garden に来ると、風景がガラリと変わる。ここは、グランドキャニオンにこんな所があるのか、と思わせられるようなオアシスである。サボテンの花が咲き、木々が茂っている。
せせらぎを抜け、いよいよ目的地である Plateau Point へ向かう。ここから先、一切日陰はない。道は平坦になるが、サボテンのまばらに生える乾燥した大地に、道はうねりながら、どこまでも続いている。
その大地の果てるところ、やっと、Plateau Point に着いた…。おお、コロラド川がこんなに近い!
ここに再び来ることはもう一生ないだろう、と思って風景を網膜に焼き付ける。
しかし余りゆっくりしてはいられない、これからが大変なのだ。ミュールツアーの一行がやってきてランチを広げ始めたので、退散することにした。
次第に陽が高くなってゆく。日差しは容赦なく照りつけ、皮膚がジリジリと痛い。中間地点、3.0 mile resthouse に辿り着いたときには、すっかりバテていた。
バテるとどうなるか?内蔵をやられる。食べ物を受け付けなくなるのだ。サンドイッチを持ってきたが、とても食べる気がしない。日本から持参したゼリー飲料を少しずつ飲み、乾燥アンズを囓る。しかし、一向に疲労は回復しない。
レストハウスの中は日陰になっていて涼しいが、一歩外に出ると、そこは灼熱地獄である。とても外に出られたもんじゃない。これまで、太陽があれほど恐ろしいと思ったことはなかった。
まぁ、日没まで、時間はたっぷりある。少し横になって、仮眠を取ることにする。
とはいえ、一刻も早くまともな世界に戻って冷たい飲み物でも飲みたい。1時間以上休んでから、意を決して出発する。ゆっくりでも前進していけば、必ずゴールに近づいていく。この時間帯、トレイルを歩いている人はほとんどいなかった。
1.5 mile resthouse で、また大休止。ここで、ずっと取っておいたリンゴを囓る。美味い!もっと沢山買っておくべきだった。
いよいよ最後の登り。16時近くなると、だいぶ日陰も増えてきた。前方、始めにくぐったトンネルの先に、Bright Angel Lodge の建物を見つけたときには心底嬉しかった。
16時40分、生還。しばらくウロウロしてから、Bright Angel Lodge の裏にアイスクリーム屋さんを発見。レモネードをがぶ飲みし、ジェラートを頬ばる。助かった…。
Bright Angel Point でタラタラしていると、偶然、S夫妻に遭遇!彼らはラスベガスから、たった今到着したところだという。
一緒に夕日を見に行くことを約束して別れる。目の前を、コンドルが悠然と飛翔していた。
一旦テントに戻り、シャワーを浴びる。2日ぶりのシャワーなのに、石鹸がない…。
そして、S夫妻のいる Yapapai Lodge へ。あーホテルは快適そうでいいなぁ。
部屋に電話してみるが、いないようだ。遅くなったので先に行ったに違いないと思いこみ、シャトルバスに乗る。日没の絶景スポット、Hopi Point への最終のバスは、さっき出たばかりという。
そこで、日の出を見たのと同じ Yapapai Point で、今度は夕日を見る。
日が沈むと同時に急に肌寒くなる。
キャンプサイトから一番近い Yapapai Lodge のカフェテリアに戻り、晩飯を食う。chicken pot pie とサラダ・バー、巨大な甘いコーヒー。久々にまともな食事にありついた。
ここで再び、S夫妻に会う。彼らはここに泊まっているので会っても不思議はないのだが。10時近くまで話す。意外に元気だな、俺…。
日の出を見て、一番過酷なトレイルを歩いて、夕日を見て、なおダベってしまう自分の体力にビックリした。
"Duck on a rock"(手前の岩)と Vishnu temple(その後ろ)
イーストリムの終点、Desert View に建つ Watch Tower
ホピの Katsina Doll のコレクション(フェニックス Heard博物館)
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