Home > 世界中の山に登りたい! > 九重山 長者原〜法華院温泉〜中岳〜久住山

【第1日】

07:00 福岡市内発(レンタカー)
10:20-10:45 長者原
11:15 車道の終点
12:20-12:50 すがもり越避難小屋
13:30 法華院温泉(泊)

7時、ジャパンレンタカー天神営業所を出発。路面が凍結しているという情報があったので、スタッドレス・タイヤ付きの車を借りる。一応チェーンも借りておいたが全く不要だった。
カーナビはアメリカでしか使ったことがなかったのだが、日本製のカーナビのあまりの賢さに驚愕する。
久住インターを下りるまでは頗る順調だった。その後、カーナビの指示通りに運転していくと、ひどい山道に入り込んでしまった。しかも、途中で道路が封鎖されており、大幅な迂回を強いられた。
やっと登山口である長者原に着いたときには既に10時20分だった。やまなみハイウェイを使えばずっと早いことが判明したのは翌日のことだった。

天候は、登山意欲が萎えるような曇り。長者原のレストハウスは寒々としていた。
1日目に久住山・中岳に登頂して法華院温泉泊、2日目には、法華院温泉に泊まらない限りアプローチが困難な大船山に登頂し、その日のうちに下山するという欲張ったプランだった。そのために、よく使われる牧ノ戸峠でなく、長者原を起点にしたのだった。
いきなり雪が積もっていてびびる。まだ12月前半だし、九州なので、たいして雪はなかろうと思ってナメてかかっていた。30分ほど車道を歩いたのち、山道に入る。
すがもり越の避難小屋に着いたときは既に12時を回っていた。これから中岳と久住山に登頂して、日が暮れる前に温泉まで辿り着けるだろうか?
今日はここから三俣山を往復するだけにして、明日改めて久住山の登頂を目指す、というプランが一瞬浮上する。
しかしとりあえず、行けるところまで行ってみようと思い直して、荒涼とした北千里浜を歩き始める。

北千里浜の荒涼とした風景

噴煙を上げる硫黄山(北千里浜より)

ほとんど休憩を取らずにコースタイム通りに行けば、4時頃には温泉に着けるはず。しかし、この雪だから、余分に時間がかかるかも…、と弱気になる。
「俺は疲れるために山に来たんじゃない、リラックスしに来たんだ」と思って自らを納得させ、さっさと諦めることにした。要するに、あんまり気分が乗ってこなかったってことだ。
すがもり越避難小屋まで引き返し、そこから直接法華院温泉に向かうことにする。法華院温泉へ向かう道は、膝まで埋まるほどの大雪だった。スパッツを持ってこなかったので登山靴の中に雪が入りまくった。

しかし、午後1時半、あっさりと温泉に到着してしまう。こんなに早い時間に来る宿泊客はいないらしく、2時になるまで部屋には入れなかった。食堂で持参したおにぎりを食べた。
ここ、法華院温泉は、徒歩で2時間かけなければアプローチできないという、全国の温泉マニア垂涎の幻の秘湯なのだ。シーズン中はかなりの混雑で、予約を取るのも大変そうである。
しかし、流石にこの時期に泊まる人は少ないと見えて、個室のしかも特別室に泊まることができた。特別室といっても部屋にストーブがついているだけなのだが。しかもそのストーブは、一酸化炭素を大量に放出するタイプの石油ストーブだった。部屋の戸を閉めるとすぐに頭が痛くなった。

温泉マニア垂涎の宿、法華院温泉山荘(後ろの山は三俣山)

温泉に浸かる。幻の秘湯を独り占め、まことに贅沢である。
外はよく晴れている。ということは、あのまま登山を続けていれば、頂上では展望を期待できたということか。でももうどうでもいいや。
温泉から上がって何枚か写真を撮った後、部屋に戻ると、猛烈な睡魔が襲ってきた。今寝ると夜眠れなくなると思いつつ、それから夕食までの2時間ほどの間、まるで麻酔にかかったように眠ってしまった。
宿泊客は、全部で3~40人といったところか。数十人から成るオバサンツアー軍団がウザい。こんな所にまで来て集団行動をして、何が楽しいのだろうか。3人の子供連れのファミリーもいる。子供たちはこの雪の中を運動靴で来たようで、ようやるなぁ、と思う。
あまり他人とコミュニケートすることもなく黙々と夕食を食べ、部屋に戻る。
他にやることもないので、7時、ふたたび就寝。翌朝6時まで昏々と眠り続ける。合計13時間ほど眠った。
だいたい普段は、常に睡眠不足なのだ。休みの日にも容赦なく娘に叩き起こされるので、俺が安らかに眠れる場所は山しかない。

【第2日】

07:30 法華院温泉発
10:10-10:25 中岳山頂
11:15-11:25 再び中岳山頂
12:10-12:30 久住山山頂
12:55 久住分かれ
13:40-13:50 すがもり越避難小屋
14:45 長者原
16:00 寒の地獄温泉発(レンタカー)
19:00 福岡市内着
21:00 福岡発(飛行機)

翌日も、テンションが低くなるような曇り空で、ガスで視界はほとんどなし。
朝食を食べ終えても、みんな昨日のうちに登頂を果たして今日は下山するだけらしく、誰も出発する気配がない。
とはいえ、いつまでもここでウダウダしていても仕方がない。ともかく登頂のみを目標にして、一人霧の中を出発する。
すぐにアイゼンを装着し、中岳への登りにかかる。法華院温泉は山小屋ではなくて温泉宿である。標高1300mほどに位置していて、これは登山口の牧ノ戸峠よりも低く、実は麓から登るのと変わらない。
高度を上げてゆくにつれ、次第に空が明るくなってきた。一瞬、青空が覗き、太陽が顔を出した。雪がキラキラと光って眩しく、目を開けていられない。サングラスを持ってこなかったのは致命的なミスだった。このまま晴れていたら雪目になっていたかもしれない。
しかし、太陽は、顔を出したかと思うとすぐに濃い霧にかき消されることを繰り返した。

中岳山頂到着。
誰もいない。ホワイトアウトで視界ゼロ。地味なピークだが、実はここが Kyushu island の最高地点(1791m)なのだ。(ちなみに、九州エリアの最高点は屋久島の宮之浦岳で、1935m。)
待っていても何も見えそうにないので、もと来た道を引き返す。続いて凍結した御池へ向かう。

凍結した御池

冬山の世界

九重連峰は、その名の通り多数のピークがボコボコと蟠っていて、視界が利かないとどれがどのピークやらサッパリ分からない。
池を越えると、多くの登山者が一つのピークへ向かって収斂していくので、あの先に盟主である久住山があるのだろうと勝手に思い込む。
途中で微妙に嫌な予感がしたもののなおも登り続けると、その先に見えたものは、さっき中岳の頂上で見た標識の裏側だった…。同じ山に2度登ってしまった!ありえねー。
これは結構な肉体的・精神的ダメージをもたらした。まぁ地図とコンパスを取り出して方向を確認すれば済むことなのだが、寒くて立ち止まるのも億劫だったのだ。
しかし、2度目の登頂は無駄ではなかった。その時だけウソのように霧が晴れ、そこから久住山の真のピークが望まれたのである。
流石に九重連峰の盟主だけあって、美しい。でも、まだ結構な距離があるな…。

中岳への登り

中岳より久住山

稲星山

やがて再びガスが出てきて、その風景は幻と消えた。既に1時間ほど時間をロスしているので、焦って久住山へ向かう。とはいえ、あまりにも多くの道が付けられていて、どれが久住山のピークへ通じる道なのかイマイチ分からない。天狗ヶ城に登頂したり、稲星山に至る道に入り込んだりしながら、やっと正しいルートを発見。

ラッキーなことに、久住山の頂上でも晴れたのだ。
先ほどとは逆に、天狗ヶ城と中岳からなる双耳峰を望む格好になった。遠方はほとんど見えなかったが、朝の陰鬱な天気を考えれば上出来だ。

久住山より天狗ヶ城(左)と中岳(右)

やっと2つのピークを制覇したことに満足して、下山開始。ここから長者原までなお2時間を要する。
多くの人は、久住分れから牧ノ戸峠方面へ行くのだが、私は単身、北千里浜へ向かう。
道が平らになると、土が露出している所が多くなってきたのでアイゼンを外す。山腹からは白い煙が吹き出しており、硫黄の匂いが立ちこめている。
すがもり越の避難小屋で遅い昼食にありつく。寒いので、昨日買ったおにぎりと唐揚げも傷まない。なおも下山を続け、車道に到着すると漸くほっとする。
山に登って、幸せを感じる瞬間が3回ある。1度目は、無事に下山して、人の匂いのする車道に辿り着いたとき。2度目は、下山後初めて温泉に浸かるとき。そして3度目は、温泉から上がって初めて生ビールを口にする瞬間だ。冬山では、その全ての幸せが増幅される。
振り返ると、いつしか空はすっかり晴れていた。三俣山と、その手前にお椀を伏せたような指山が美しい。

長者原より指山(手前)・三俣山(後)

レストハウスでソフトクリームを食べ、車に乗って最寄りの温泉、寒の地獄温泉へゆく。鄙びていてなかなか宜しい。
やはり今日、日帰りで久住に登ってきたという地元大分のおっちゃんもいた。その人は月に2回は久住に行くということで、地元民からとても愛されている山なのだろう。
だが、あまりゆっくりと話をしている暇はなかった。俺は今日中に東京に帰らなければならないのだ。
4時、温泉を後にする。今度はカーナビの指令を無視してやまなみハイウェイを走り続ける。いい道だ。
終点の湯布院の近くに展望台があったので登ってみた。時はまさに夕暮れ、そこからは、予想もしなかった、雲を頂いた端正な山が見えた。あれは、豊後富士の異名をもつ由布岳だったのだ。九州には、標高こそ低いものの、いい山が沢山あるなと思った。

やまなみハイウェイより由布岳

湯布院インターから高速に入る。九州の高速はすいていて、非常に快適である。これなら6時には福岡に着けるだろうと思った。
ところが、高速を下りてから、天神付近の繁華街で凄まじい渋滞に巻き込まれてしまった。やっとこさレンタカー会社に到着したときは既に7時。
念のため夜9時発の飛行機にしておいてホントに良かった。車を返してから、天神のデパートでお土産のカステラと明太子を購入。(ちなみに、ザラメの砂糖のついた福砂屋のカステラは大好評だった。)
空港に行って、チェックインしたりしているうちにもう8時15分。まだビールを呑んでないぞ!焼き肉でも食べたいところだがなんせ時間が押しているので、空港のレストランで、すぐに出てくる刺身御膳を速攻で食べる。結局、家に辿り着いたのは12時過ぎだった。

少々ナメてかかっていたけれど、久住山は、完全なる冬山の装いで私を迎えてくれた。トレーニングゼロ、計画杜撰、準備時間なしで出張のついでに登る山としては、なかなか手応えがあった。(05/12/21)

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