Home > 世界中の山に登りたい! > 那須三山 茶臼岳〜朝日岳〜三本槍岳
最近、山に行くために越えなければならないハードルがますます高くなってきている。筋トレをする時間もロクに取れない。それでも、1ヶ月経つと脚がムズムズしてくるので、俺は全てを擲って山に向かうのだ。
先月の3連休(10月7~9日)には、鹿島槍に登頂すべく北アルプスに入った。冷たい雨の降りしきる中、扇沢から種池山荘まで到達したものの、翌日初冠雪で吹雪に見舞われあっさり撤退。ちなみにこの3連休には、合計10人もの方々が山で遭難死したという痛ましい事態となった。
那須岳は、冬の風雪の厳しいことで有名である。
冬山に入るときはいつもビビっていて、今回もピッケルが必要かどうか一瞬悩んだのだが、そんなものを持っていたら笑われるところだった。思ったより雪は少なく、結局、アイゼンが必要な箇所すら一カ所もなかった。
那須岳にもロープウェイが架けられてしまっているので、夏にはウザイ観光客が大挙して押し寄せる。こういう観光地化されてしまった山は、冬に訪れるのが良いのだ。冬山に入ると、自分が生命体であることが実感できる。
部分的にだが、久しぶりに天候にも恵まれ、無事に那須三山も制覇できたことだし、なかなか美しい登山ができたような気がする。
07:46 上野駅発(新幹線)
09:08 那須塩原駅発(宇都宮線)
09:20 黒磯駅発(バス)
10:20 那須岳山麓バス停発
10:40 登山指導所
11:20-11:40 峰の茶屋跡避難小屋
12:40-13:00 茶臼岳山頂
13:35-13:50 峰の茶屋跡避難小屋
14:50 三斗小屋温泉着
那須岳は、頗るアクセスが良い。新幹線の那須塩原駅からわずか5分で黒磯駅、そこから那須岳山麓へはバスが頻発している。
意外に多くの観光客でほぼ座席の埋まったバスは、無節操な脈絡のない観光施設の立ち並ぶ道を走り抜け、ロープウェイの那須岳山麓駅に着いた。軽く雪がちらついていた。
当然のことながら、ロープウェイには目もくれずに歩き出す。すぐに、九州の久住山を彷彿とさせる荒涼とした風景となり、風も強くなる。
峰の茶屋跡周辺は風の通り道になっていて、冬場は身体が吹き飛ばされそうなほどの強烈な風が吹き荒れることで有名である。実際のところ、ここに避難小屋が建っていてくれるのは非常に有り難かった。
暖かい紅茶を飲んで一休みしてから茶臼岳頂上へ向けてアタックを開始する。あまりの強風に前が見えず、誤って牛ヶ首への山腹を巻く道に入り込んでしまう。硫化水素の強烈な臭いが鼻を突く。この間違いのおかげで、もうもうと湯気を上げる無限地獄を観光することができた。
元来た道を引き返し、気を取り直して山頂を目指す。岩でガラガラの道を登っていき、鳥居をくぐると、小さな祠のある茶臼岳山頂に着いた。
先ほど道を間違えて30分ほどロスしたおかげで、山頂では晴れ間に見舞われた。眼下に広がる関東平野は晴れわたっているが、目立つピークは一つもない。なにしろ風が凄まじいので、のんびりと山座同定をやる訳にもいかず、早々に切り上げることにした。
雪で覆われたお鉢をぐるりと回ってから、峰の茶屋避難小屋に戻った。
避難小屋で休んでいると、中高年グループがドヤドヤとやってきて部屋を占拠した。ガイドらしき人の話によると、朝日岳を往復してきたところらしい。
ここから朝日岳へ向かう道は鎖場があって、雪が付くと危険であるとガイドブックに書いてあった。こんな中高年のグループが問題なく行けたのだろうか?ともかく私は、鎖場を回避するために、その日はそこから三斗小屋温泉に向かい、翌日朝日岳へ登ることにしたのであった。
三斗小屋温泉周辺にはもう雪はなかった。三斗小屋温泉は、最低でも徒歩で2時間近く歩かないとアクセスできないという、温泉マニア垂涎の秘湯である。冬場は雪に閉ざされてしまうので、ほぼ11月一杯で営業を停止する。夏はかなり混雑するだろうから、11月下旬のこの時期が狙い目なのである。
ここには、煙草屋と大黒屋という2軒の宿がある。大黒屋の木造の建物は非常に味わいがあるが、今回泊まったのは煙草屋である。実は、煙草屋にしか露天風呂がないのだ。
3時頃宿に着いたのだが、3時から5時までは、露天風呂は女性タイムだった(それ以外の時間帯は混浴)。そこで、まず内湯に入った。内湯は熱さが3段階あって、一番熱いのに入ると火傷をする。真ん中もかなり熱いのだが、慣れてみるとこれが丁度良かった。その日は女性客が2人しかいなかったので、4時頃には男性客にも露天風呂が開放された。なるほど、これは実に開放的な、野趣溢れる露天風呂だった。目の前には、軽く雪化粧した流石山・大倉山が大きく聳えていた。
夕食はなんと4時半からである。宿泊客は総勢20人ほどだった。温泉好きのリピーターが多く、意外にも、登山目的で来た人はほとんどいないようだった。
夕食を食べ終わるともはややることがない。夜は内湯にランプが灯され、かなりイイ感じになるらしかったが、7時までは女性タイムだったし、寒くて面倒くさいのでやめた。
というわけで、5時45分に就寝。家にいると、寝るのが遅いのに朝は容赦なく娘に叩き起こされるので、慢性的に寝不足である。従って、寝だめをしておくというのも山に来る理由の一つなのである。
06:55 三斗小屋温泉発
07:50-08:10 隠居倉山頂
08:55-09:05 朝日岳山頂
09:40-09:50 清水平
10:30 三本槍岳山頂
12:30 北温泉
14:45 バス停
16:35 黒磯駅発(宇都宮線)
17:49 宇都宮駅発(新幹線)
昏々と眠って、朝4時頃目が覚める。が、寒くて布団から出られない。
結局6時に起床。外に出てみると、晴れている!一刻も早く出発したいが、朝食が6時半からなのでそれまでソワソワしながら待つ。露天風呂に行ってみると、遠くに白く雪を頂いたなだらかな山と尖った山が見えたが、それは会津駒と燧であった。
何人かの温泉マニアたちは早朝からまた風呂に入っていた。太鼓の音が食事の合図である。速攻で朝飯を掻き込んで、お湯を貰って紅茶を作り、すぐに出発する。他の誰も出発しようとしないところを見ると、この日三本槍へ向かう人は他には誰もいないらしい。
空は素晴らしく晴れ渡っている。登るにつれて、遙か彼方に真っ白な神々しい山並みが見えてくる。この辺に、あんなに高くて立派な山脈があっただろうか?
一時間後、この日最初のピーク、隠居倉(1819m)に到着。風もなく、そんなに寒くない。この日はまだ誰もここ来た形跡がない。しかし先客がいたようである。真新しい動物の足跡があったのだ。猿だろうか?
朝は晴れていても山頂に着く頃にはすっかり曇っている、というのがいつものパターンだが、この日は違った。360度ぐるりと周囲を見渡すことができる。
とはいえ、隠居倉は那須連峰のヘソのような位置にあって、北面を三本槍、東面を朝日岳、南面を茶臼岳の那須三山にブロックされており、北東面にも流石山・大倉山が聳えているので、そんなに多くの山々が見えるわけでもない。しかし、三本槍と流石山の隙間に広がる風景は、雲海から山々が島のように顔を出し、実に美しい。
三本槍のすぐ左側には、先ほどの真っ白い峰々が聳えている。この山は一体何であるのか?家に帰って地図を調べてみると、それは、本州で最も原始性を残した山域の一つ、飯豊連峰であった。いつかはそこにも足を運んでみたいものである。
茶臼岳は噴煙をあげ、朝日岳は荒々しい岩肌を朝日に反射させ、そして三本槍はその名前とは対称的にあくまでもなだらかに、三者三様の姿でそれぞれの位置に屹立していた。
流石山の左側には、南会津と尾瀬の山々。南西面の雪のない山々は、日留賀岳から男鹿岳へと続く稜線であろう。ここもかなりマニアックなエリアである。
ここでゆっくりできれば良かったのだが、このあとまだ2つのピークが残っていたし、予報では昼過ぎから雨が降ることになっていたので、先を急ぐことにした。
熊見曽根の分岐点に着く頃には、茶臼岳の方向からもの凄い勢いで雲が沸き上がってきていた。この辺は風が強いので、木に咲いた雪の花が美しい。
少し登り返して朝日岳山頂へ到着。こちら側から登る分には何の問題もなが、ここから茶臼岳への縦走路はなかなか険しそうだった。
更に先を急ぐことにし、すぐに山頂を後にした。やがて、茶臼岳は白い雲に掻き消されてしまった。
熊見曽根の分岐点まで戻り、そこから小さなピークを越えて清水平へ向かう。
茶臼岳を覆い隠した雲が後ろから追いかけてきて朝日岳を隠し、やがて、目指す三本槍岳のピークも見えなくなってしまった。
清水平には美しい雪原が広がっていた。ここは風もなく快適なところで、初めてゆっくりと休憩を取った。今しがた三本槍岳に登ってきたという人に出会った。「今日初めて人に会った」と言っていたが、北温泉から登ってきたのだろうか。
最終目標である、那須連峰最高峰・三本槍岳まではあと少し。と思っていたのであるが、ここから先が意外に長く険しかった。相変わらずアイゼンは不要だが、雪が深い。
三本槍岳のピークに到達した時には、周囲は真っ白になっていた。
あとは北温泉までひたすら下山するだけだ。中の大倉尾根は、深くえぐられた道の上に砂利を固めたブロックが階段状に置かれていて、非常に歩きにくかった。
今にも降り出しそうな空模様だったが、なんとか持ちこたえていた。
2時間ほどで北温泉に到着。と同時に雨が降ってきた。ここもまた、アクセス困難な秘湯である。プールのような巨大な温泉がある!
早速、温泉に浸かる。プールサイズの温泉は混浴で、女性も水着を着て入っているが、広いのであまり問題にならない。隣接した建物には男女別の浴槽があって、こちらは丁度良い湯加減。
ここからバス停まで、20分ほどの道のりを歩かなければならない。ところが、バス停の標識が朽ち果てていたらしく、一向にバス停に到達できない。
結局、冷たい雨の中、湯冷めしそうな状況でバス停2区間分ほど歩いてしまった。何とかいうバス停を発見した直後に、タイミング良くバスがやって来てくれたので、一命を取り留めた。
黒磯で生ビールとともに遅い昼食を食べ、有名な温泉饅頭を土産に買った。敢えて宇都宮まで鈍行に乗ってみたが、地元高校生の栃木訛りがなかなか素敵だった。駅で買った「宇都宮餃子」もまことに美味であった。(06/11/26)