読書日記 2009年

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感謝されない医者 金田正樹 山と渓谷社 ★★★★☆

著者は、1973年の第2次RCCエベレスト登山隊に医師として参加、登頂後のビバークをへて重度の凍傷に罹った加藤保男(エベレスト三冠王、日本人冬期初登頂後遭難死)を治療。日本人初のエベレスト無酸素登頂者である吉野寛(登頂後、滑落死)や、南極大陸単独徒歩横断の大場満郎、山野井泰史・妙子夫妻ら、何百人もの凍傷患者の指を切断した、山の世界では名の知れた凍傷ドクターである。

しかし、著者自身が最も関心があるのは、凍傷治療ではなく集団災害医療であるという。
著者は、ソ連軍撤退後のアフガニスタンの野戦病院で医療活動を行っている。地雷に触れた子供の治療や、42人もの瀕死の患者を徹夜で手術した話など、あまりにも凄惨である。それに比べると、ヒマラヤ登山の話もかすんでしまいそうだ。

凍傷は、一流アルピニストだけの問題ではない。実は、冬山入門コースである八ヶ岳の稜線上での受傷例が一番多いという。
私も、オールシーズン用の重登山靴で厳冬期の赤岳に登ったとき、足の親指にジンジンする痛みを覚えた。あれは、末梢への血流が悪くなったシグナルであり、凍傷へのイエローカードだったのだ。その後、痛みを感じなくなったらレッドカードである。
表在性凍傷の場合は、血液の水分が血管外に露出して水疱を形成することが多い。水疱は真皮の壊死と細菌感染を防ぐ働きがあるので、絶対に破ってはならない。
凍傷の予防法は、行動時間を短くすること、水分をきちんと摂取すること、そして、装備を工夫することである。非常に参考になった。(09/04/07 読了)

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