読書日記 2010年

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黒いスイス 福原直樹 新潮新書 ★★★☆☆

鉄道でイタリアからスイス領内に入ると、突如として快適になる。確かにスイスは小ぎれいである。でも、観光客が短期間滞在するには良いところかもしれないが、物価が異常に高いし、よそよそしくて住みにくそうな印象を受ける。現在でもEUに加盟していないという事実が、スイスの排他性を物語っている。ノーテンキにスイスが「理想の国」だなどと思っているおめでたい人にとってはともかく、本書に書かれていることは、別段驚くにはあたらない。

かつてスイス政府は、ロマ(ジプシー)を根絶させるべく、ロマの子供を誘拐して施設に閉じ込めていた。第2次大戦中には、ユダヤ難民の流入を抑えるために、ナチスに頼んでユダヤ人のパスポートに「J」のスタンプを押させた。しかし、20世紀という時代は、あらゆる国家がマイノリティーを殲滅させることに必死だったのであり、とりわけスイスが「黒い」というわけでもない。もちろん、過去の国家による犯罪行為を白日の下に晒す作業は重要だが、現在進行形でそういうことを行っている国家こそもっと糾弾されるべきだと思う。(10/06/26読了)

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