読書日記 2019年

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似せてだます 擬態の不思議な世界 藤原晴彦 化学同人 ★★★☆☆

「虫屋」という言葉があるように、昆虫の世界は実にマニアックで奥深い。
昆虫の擬態はビジュアルに訴えるので分かりやすい。それは、捕食者である鳥の視覚が人間と似ているからであろうか。 やはり、枯葉がカールしたようにしか見えないムラサキシャチホコUropyia meticulodina)のような例が印象的である。

本書は、擬態の入門書としては良いと思う。「擬態を分子生物学の視点から語る」ということなのだが、2007年出版なのでやや情報が古い。とはいえ、擬態の世界はあまりに多様なので、個々のケースについての分子メカニズムは、現在でもほとんどわかっていないのかもしれない。
アリのフェロモンを真似て巣穴に侵入する「蟻客」、メスの蛾の性フェロモンを使ってオスをおびき寄せて捉えるクモなどの「化学擬態」の例は面白い。

本書は、最初の企画段階では「ムシの擬態、ヒトの擬態」というタイトルを提示されたらしく、むりやり人間社会における例で喩えようとしている。だが、それが理解の助けになるということもなく、そもそもそれらの例があまり適切ではないため、むしろ本書の価値を減じているように思う。

一つ間違いを指摘しておく(P. 154):カニクイザルは新世界ザルではなく旧世界ザルである。(19/10/03読了 19/10/09更新)

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