読書日記 2020年

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アタカマ高地探検記 向一陽 中公新書 ★★★★★

南北7500キロメートルにわたる地球最大の山脈、アンデス山脈。その核心部、ボリビア・チリ・アルゼンチンの三国国境あたりからチリ最高峰、オホス・デル・サラードあたりまでのエリアが、アタカマ高地だ。
本書は、今からちょうど半世紀前の1970年に、アタカマ高地をジープと徒歩で縦断したときの貴重な記録である。
探検隊は、著者を隊長とする8人。隊長35歳、他の隊員はみんな25〜33歳だから若い。いくつもの新聞社から協賛を取りつけ、半年以上にわたって探検を続ける・・・なんてことが許された時代だった。

当時はまだ、地球上に未踏の地が残されていた。文字通りの「探検」が可能だった時代なのだ。1970年といえば、植村直己が松浦輝夫とともに、日本人として初めてエヴェレストに登頂した年でもある。
実際この隊は、カサデロ(Cazadero 6,670m)峰に初登頂している。これは、当時アンデスに残されていた、一番高い未踏峰だった。
また、チリ最高峰オホス・デル・サラード(Ojos del Salado 6,893m、「塩の目」の意味)にも登頂している。この登頂は、記録に残されている中では5番目だという。当時、オホス・デル・サラードはアコンカグア(Aconcagua 6,960m)よりも高く、実はこちらが南米最高峰かもしれないと考えられていた。
ただしどちらの山も、著者自身は登っていない。他の隊員が登った手記が引用されているのみである。
著者らはまた、オホス・デル・サラード、カサデロ、トレス・クルーセス(Tres Cruces 6,748m)といった高山に囲まれた「砂の聖域」を発見する。人類として初めて足を踏み入れる・・・というのはどんな気分だろうか。

アタカマ高地は、世界でいちばん雨が降らないところでもある。
「世界最悪の場所」と呼ばれるように、その環境は過酷を極める。とにかく水がない。あったとしても、塩分濃度が高くて飲めたものではない。
「甘い水」agua dulceと呼ばれていた小湖の水を飲用水として利用していた。ところが、赤ワインと混ぜると、たちまち紫がかった鮮やかな青色に変色した・・・という話は印象的である。持ち帰ったサンプルを顕微鏡で観察してみると、小さなダニが泳ぎまわっていたという。

著者らはまた、ユーヤイヤコ峰付近に、砂に埋もれて忘れ去られたインカ道を発見する。このユーヤイヤコ(Llullaillaco 6,739m)はアンデスで7番目に高い山だが、山頂から、生き埋めにされた生け贄の少女のミイラが発見されたことで知られている。
インカ道といえば、クスコからマチュピチュへ至る道が観光用に整備されている。現在、アタカマ高地のインカ道はどうなっているのだろう。
ウユニ塩湖も月の谷も、当時は訪れることさえ難しい秘境中の秘境だった。今やすっかりメジャーな観光地になり果ててしまった。しかし、本書を読んでから訪れてみれば、だいぶ印象が変わるような気がする。

アンデス山脈には、6000メートルを超える山々が100座もひしめき合っている(アンデスの6000メートル峰)。
アンデスの国々の最高峰は以下の通りである。

国      最高峰         標高   所要日数
アルゼンチン アコンカグア      6,960m 21日
チリ     オホス・デル・サラード 6,893m 14日
ペルー    ワスカラン       6,768m 6日
ボリビア   サハマ         6,542m 4日
エクアドル  チンボラソ       6,267m 2日

アンデスが良いのは、それほどの技術がなくても、6000メートル級の山に登れるということだ。コロナが終息したら、行かなければなるまい。(20/05/05読了 20/05/20更新)

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