読書日記 2024年

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はじめての数論 原著第3版 ★★★★★ ジョセフ・H・シルヴァーマン 丸善出版

素晴らしいの一言。
数学読み物と、専門的な教科書の中間に位置するような本。まさにこういう本を求めていた。
全ての証明を追い、問題を解きながら読み進めていくのは大義だが、そんなことをしなくても――つまり、すべてを完璧に理解しなくても――どんどん先に進んでいける。気になったところを拾い読みするのもよい。
ただし、数学とは、論理の積み重ねである。そのため、行きつ戻りつしながら読み続けるうち、全体を通読することになる。
ついに最終章に到達した時には、深い充足感に包まれることだろう。

本書が何より素晴らしいのは、具体例がふんだんに載っていることだ。
まず小さい数でいくつか「実験」してみて、パターンを導き出し、予想を立てる。そして、可能ならばその証明を与えていく――という、数学のエッセンスがぎっしり詰まっている。
「数の辞典」的な本ならたくさんある。本書は、そういう眺めているだけで楽しい例も豊富に示しつつ、その裏に潜む深遠な理論をも垣間見させてくれる。

例えば、ペル方程式

x2 - 313y2 = 1

を満たす最小の整数解は、びっくりするほど大きな数:

x = 32188120829134849, y = 1819380158564160

となる。
これはコンピュータの助けがなくても計算可能である。それには、連分数展開

を使えばよい。

本書の前半のクライマックスは、RSA暗号だろう。情報系の本ではこの辺の説明は誤魔化してあるが、本書の解説はどの本よりも分かりやすい。ここだけでも読む価値がある。

RSA暗号は、modの世界である。素数 p を法とするmodの世界を考えると、驚くほどの深遠な世界が広がっている。
例えば、2 以外の素数は、p ≡ 1 (mod 4) か p ≡ 3 (mod 4) と書けるが、そのどちらかによって全く性質が異なる。
p ≡ 1 (mod 4) の素数は、2つの平方数の和に(一意的に)表せるが、p ≡ 3 (mod 4) の素数はそうではない。
この性質は、素数を複素数に拡張した時にも関係してくる。すなわち、複素数の世界における素数(ガウス素数)とは、

(i) 1 + i
(ii) p ≡ 3 (mod 4) であるような素数 p
(iii) p ≡ 1 (mod 4) であるような素数 pp = u2+v2 と分解したとき、u + vi

である。
なお、複素数の世界では、2は素数ではない。2 = -i(1 + i)2 と分解されるからだ。

あるいは、二項係数をmodの世界で考えてみると、素数 p と任意の a, b に対して、

(a + b)pap + bp (mod p)

というシンプルな関係が成り立つ。 ここから、フェルマーの小定理:a ≢ 0 (mod p) に対し、

ap-1 ≡ 1 (mod p)

はただちに導かれる。

他にも、

  • カーマイケル数(561, 1105, 1729, 2465, 2821, 6601, 8911, …)
  • (素数の)ラビン・ミラー判定法
  • アルティン予想
  • 離散対数
  • 平方剰余の相互作用
  • ディオファントス近似
  • リュウビル数 β(とその超越性の証明)
  • といった、どこかで聞いたことはあるがキチンと理解していなかった話題が、玉手箱のように次々と登場する。

    本書の締めくくりは、楕円曲線である。楕円曲線は、フェルマー=ワイルズの定理の証明のキモとなる。
    ここでも、素数 p を法とする世界で考える。 このとき、(不思議なことに)楕円曲線上の点の個数は、だいたい p に等しくなる。そして、(非常に不思議なことに)両者のズレ(p欠乏)はモジュラー性を示す――すべて、ある複雑な多項式の係数にピッタリ一致する――のである。

    ここまでくると、現代数学の香りが漂ってくる。
    しかし、本書ではそもそも楕円関数は3例しか出てこないので、一般化には程遠い。 この先には広大な専門書の世界が広がっている。
    大学生くらいの時にこの本に出会っていたら、違う人生になっていたかも…。(24/12/07読了 24/12/13更新)

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