読書日記 2008年

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ヒロシマ・ノート 大江健三郎 岩波新書 ★★★★☆

人類が体験した最悪の悲劇、原爆。

爆心地の話をつたえてくれる人は、いません
足だけ二本、ぴったりとコンクリートの路の上にはりついて、つっ立っていました
気がついてとび出してみると、敬礼姿のまま、戦友たちが立っている。「オイッ」と肩をたたいたら、ざらざらと戦友はくずれおちました

こういう絶望的な状況の中で、自らも被爆しながら必死に救護活動を続けた医師たち。自分の顔をゆがめるケロイドへの嫌悪、羞恥心を克服し、あえて壇の上に立って光を浴びることで、人類全てに代わって自分たちが体験した原爆の悲劇を伝えようとする、かつて美しい娘だった女性たち。
著者は、「最悪の絶望、いやしがたい狂気の種子が胚胎するところに生きつづけている、決して屈服しない人々」に出会い、「とくに確実な希望があるというのではない場所で、つねに正気でありつづけ、地道な志をいだきつづける人々」の声に耳を傾ける。

通勤電車に揺られていて、ヒロシマで被爆した人たちに思いを馳せることがあるだろうか?それができるのが、読書の価値である。これを読んだからといって、ただちに平和運動に邁進しなくてもよい。ただ、忘れてはいけないのである。本書が世に出た戦後20年の時点で、すでに日本中が一丸となって戦争を忘れようとしていたのだから、書物のもつ力というのは大きいと思う。(08/09/10 読了)

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