悩む力 姜尚中 集英社新書 ★★★☆☆
姜さんの「色気」を蒸留して結晶させたような本である。「まじめ」たれ、こんなことを真面目に言うことができる人は、今の日本に姜さんをおいて他にないのではないか。曰く、愛とは、そのときどきの相互の問いかけに応えていこうとする意欲のことである──。
伝統的な共同体は瓦解し、「自由」という名の衣をまとった自己責任の重圧の下で、誰もが何にすがって生きていけばよいのか分からずに喘いである。現代とはそういう時代である。ただ、そうなった責任は科学にあるのではない。「反科学的」ともとれる、著者のステレオタイプな科学観がやや気になったことも指摘しておく。
ところで、この本はどういう読者層を想定しているのだろうか?とても平易な文章で書かれているので、大学生向けかと思って読んでいたが、「あとがき」を見るとそうでもないらしい。むしろ、「老いて最強をめざす」中高年(中高生ではない!)を第一に想定しているようである。ということは、最近の中高年は悩むらしい。著者の指摘するように、漱石が亡くなったのは50歳のときだから、今の大人は昔と比べてなんと幼くなったことだろう。
私も、そろそろ漱石の真価が分かる歳になっただろうか。前期三部作でも読んでみようかな。(08/12/18 読了)