色の新しい捉え方 南雲治嘉 光文社新書 ☆☆☆☆☆
著者は、従来の色彩論がデタラメや詭弁に満ちていて、それを糾す目的で、最新の脳科学や素粒子論の考え方を取り入れて本書を執筆したという。しかし、本書こそがデタラメであり、いわゆるエセ科学(トンデモ科学)に属するものだ。一見科学の装いをまとっているだけに、却って有害である。
驚くべきことに、著者は、色が何であるかを全く理解していない。「色の力とはなにかというと、電磁波としての力であり、すなわち素粒子としての力だということです」(P.27)「目から入った色は電気信号に換えられ、・・・その色の波長ごとに異なる反応を見せる」(P.46)などという記述から推測するに、著者は、色の性質は波長の違いからもたらされると信じているようである。しかし、色は物理的な性質ではなく、脳で知覚されるものである。従って、色が様々な生理作用を持つとしても、それは(おそらく学習による)心理的な効果にすぎない。(だから、P.47~49のごとき単純な図式も成立しない。)
以下の、物理・神経科学の説明は、完全に間違っているか極めて不適切である。
アインシュタインが示したのは、質量とエネルギーの等価性であるが、光子は質量をもたない(P.28) 彩度はエネルギーでは決まらず、異なる波長のコントラストで決まる(P.29) 「明度は時間」の解説(P.32)は全く意味不明 「視覚野に色が映し出される」(P.42)は不適切 「電磁波の波長が脳で色に変換される」(P.43)は誤り 「各色が持つ電磁波」(P.52)という表現は意味不明 「暖色系の色を暖かく感じるのは、見た目だけでなく、その色が持つ素粒子としての性質も大きく左右しています」(P.84)は(おそらく)ウソ 「波長が長ければその分、光が早く目に届く」(P.86)はウソ(波長が長くても短くても光速度)
まったく、開いた口がふさがらないとはこのことだ。こんないい加減な記述でも本が出版できてしまうというのは、実に由々しき事態だと思う。(10/02/11読了)