読書日記 2010年

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日本辺境論 内田樹 新潮新書 ★★★☆☆

日本人は辺境人である。アメリカの東海岸や西ヨーロッパに行ってみると、実感としてそれを感じる。 日本は、広大なユーラシア大陸の東の果てに位置し、その東側には太平洋が果てしなく広がっている。それに対して、ユーラシア大陸の反対側に位置するヨーロッパは、大西洋を挟んでアメリカ大陸と対峙している。 地球上に存在する大陸の分布は著しく偏っていて、実際のところ、陸地面積が最大となる半球(陸半球)の中心は、ヨーロッパの西端(フランスのナント付近)に位置するのである。

日本は、「中華秩序」(それが中国であれヨーロッパであれアメリカであれ)における中心との相対的距離によってしか自らを規定することができず、従って世界に向けてメッセージを発信することもない。しかし一方で、その辺境性ゆえに、学ぶことには長けている。日本ではあらゆる技術を「道」にしてしまうが、それは、非常に卓越した教育プログラムである。

「学び」という営みは、それを学ぶことの意味や実用性についてまだ知らない状態で、それにもかかわらず、これを学ぶことがいずれ生き延びる上で死活的に重要な役割を果たすことがあるだろうと先駆的に確信することから始まります。
「学ぶ力」というのは、あるいは「学ぶ意欲(インセンティヴ)」というのは、「これを勉強すると、こういう『いいこと』がある」という報酬の約束によってかたちづくられるものではありません。その点で、私たちの国の教育行政官や教育論者のほとんどは深刻な勘違いを犯しています。

本書は、噛んで含めるような平易な文章で書かれている。全体としては雑駁でちぐはぐな印象だが、色々と面白いことを言っている。最終章「辺境人は日本語と共に」は蛇足な感じがするが、「日本的コミュニケーションの特徴は、メッセージのコンテンツの当否よりも、発信者受信者のどちらが『上位者』かの決定をあらゆる場面に優先させる(場合によってはそれだけで話が終わることさえある)点にあります」などというのには大いに納得させられる。(10/05/23読了)

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