がん緩和ケア最前線 坂井かをり 岩波新書 ★★★☆☆
癌と闘う、のではなくて、癌と向き合って、共生しようとする「緩和ケア」という考え方。緩和ケアは、治療法がなくなって、医者が匙を投げた末期患者が静かに死を待つところ、ではなくて、治療と並行して早期から行っていくべきものである。お世話になった癌研有明病院では、まさにそのような治療が実践されている。もっと早くこの本を読んでおくべきだった。
ただ、本書は、癌研有明病院の紹介に終始していて、ルポとしては腰が引けているような物足りなさを感じた。日本は緩和ケアの後進国である。とはいえ、もっとベーシックな部分の医療崩壊が進行している今日、ここで紹介されているような緩和ケアが、すぐに万人に提供できるようになるとも思えない。誰だって高度な最先端のサービスを受けたいと思うが、ではどうしたらそれが可能になるのかは、日本の医療をトータルに考えなければならない問題である。その辺の議論が欲しかったところだ。
また、この本を手にする読者のナイーヴな心情を考慮すれば仕方ないのかもしれないが、個人的にはこういう湿っぽい文体はあまり好きではない。(10/05/19読了)