知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性 高橋昌一郎 講談社現代新書 ★★★★☆
哲学なんてイマドキ流行らないわけである。が、この本はなかなか面白かった。色んな立場の仮想的人格を持つ登場人物たちが、好き勝手な主張をするディベート形式で物語は進んでいく。それこそが、正解のない哲学という学問の姿なのかもしれない。
サピア=ウォーフの仮説について調べようと思って、本書を手に取った。それに関してあまり深い議論はなかったのだが、色々と面白いネタが満載だった。アラン・ソーカルの『「知」の欺瞞』、ヘンペルのパラドックス、ニューカムのパラドックス、ファイヤアーベント自伝『哲学、女、唄、そして・・・』、定数が微調整された宇宙と人間原理、などなど。この本を足がかりとして、原著に当たってみるのが良いと思う。
現在、哲学に残された仕事は、諸自然科学をメタ的に語ることしかないのだろうか?そうだとすると、哲学者が理論的背景までを含めてあらゆる自然科学に精通することは不可能なのだから、どうしても表面的な理解のみで自然科学について語ることになる。『「知」の欺瞞』でコキ下ろされている人たち──ただ論文を難解な用語で飾り立てるために、ロクに理解もせずに自然科学系のテクニカル・タームを濫用するポストモダニズム陣営の人たち──と五十歩百歩、なのだろうか。「強い人間原理」なんて「強い言語相対論」と同じくらい馬鹿げたもので、こんなものを真剣に議論している真っ当な物理学者がいるとは到底思えないのだが・・・。(10/05/17読了)