絶対貧困ー世界リアル貧困学講義 石井光太 新潮文庫 ★★★★☆
途上国の貧困問題。それは、あまりにも巨大すぎて、到底一人の人間の手に負えるものではない。著者は、絶対的貧困の中に生きる人たちの実生活を、ただありのままに、あっけらかんと記すという方法によって、この問題と対峙する。
路上で暮らす物乞いだって、セックスもすれば出産もする。庶民の中に溶け込んで暮らすアジアの路上生活者はほほえましくもあるし、そこには人情味溢れる世界が広がっている。けれどもそこは、強盗や強姦、麻薬売買や人身売買などの犯罪がはびこる、世の不条理が集まった汚い世界でもある。
劣悪な衛生状態の中で、下痢や肺炎によって多くの子供たちの命が失われていく。ストリートチルドレンは寂しさからシンナーに手を出し、やがてシンナー欲しさに盗みを働くようになる。歯は抜け落ち、身体はボロボロになるが、施設に保護されることもない。若い女性のほとんどは売春業に関わっている。子供を誘拐して、目をつぶしたり手足を切断したりして障害児に仕立てた挙げ句、物乞いをさせ、稼がせたカネは全部巻き上げるという残酷極まりない犯罪組織もある。
このような絶対的貧困は、我々のすぐ隣に、厳然と存在している。たまたま日本に生まれたか、途上国のスラムに生まれたか、その違いによって圧倒的な不公平がもたらされるのだ。
この救いのない現実に向き合ったとき、私たちは一体どうすべきなのだろうか?その答えはどこにも書かれていないし、著者は、それに答えようともしない。でも、なにもしなくても、ただ知ろうとする努力をするだけでもいいのかもしれない。
途上国を旅した人がしたり顔で、「物乞いにお金を与えてもキリがないし、なんの解決にもならないから、あげるべきではない」などと言う。あるいは、「日本人はすぐにお金をくれると思われてナメられるから、他の日本人が迷惑する」とまで言う人もいる。でも著者は、そんな理屈を並べ立てて数十円かそこらをケチってどうする、という。どっちみち解決なんかできっこないのだから、もっと簡単に考えればいい。「頑張ってるな」と思ったら、ティッシュでもお菓子でも買ってやればいいのだ。ちょっとぼられたところで、大した金額ではないのだから。(12/01/23読了 13/02/10更新)