日本の原子力施設全データ 北村行孝・三島勇 講談社ブルーバックス ★★★★☆
2012年2月に、福島第一原発の事故を踏まえた「完全改訂版」が出版されたが、私が読んだのはその前のバージョンである。しかし、この旧バージョンの方が、あの事故が起きる以前に原発がどのように認識されていたかを知る上で、参考になる。
本書ではまず、冷却剤と減速材に言及しつつ原子炉の原理を述べ、次に軽水炉・重水炉・黒鉛炉・高速増殖炉の違いについて説明している。それから、詳細な図とともに原子炉の構造について解説したのち、核燃料サイクルについて述べている。敦賀にある高速増殖炉「もんじゅ」について調べていたので、この説明は大いに役立った。
第2部では、タイトルにある通り、日本にある原子力施設の全データが示されている。全国16ヶ所にある商業用原子炉だけでなく、研究用原子炉のデータも掲載されている。東大、武蔵工大、立教大、近畿大、京大、そして東芝は、それぞれ研究用の原子炉をもっている。建設費も書かれていて、「もんじゅ」は5885億円、青森県六ヶ所村の再処理工場は2兆1400億円(予定)だそうだ。
第3部は、原子力事故についてである。これは知らなかったが、日本では、1999年のJCOの臨界事故(レベル4)以前にも、多数の原子力事故が起きている。例えば1997年には、JCOと同じ茨城県東海村で、放射性廃棄物を溶かし込んだアスファルトを充填したドラム缶が爆発するという事故(レベル3)が起きた。そのため、放射性ガスが施設外に漏れ、作業員37名が被曝するという事態になった。その他、福島第二原発、美浜原発でそれぞれ1989年、1991年にレベル2の事故が起きている。一方、「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故は、事故後のビデオ隠しなどの対応のお粗末さによって騒ぎが大きくなったものの、工学的な見地からは「レベル1」と評価されている。
これらの事故を受けて、原子力に対する安全対策は強化され続けてきたはずだった。しかし、行政組織としては、原子力の「推進」と「規制」という分業体制がとられていたものの、それが全く機能していなかったことは、あの事故で明らかになった通りである。本書で指摘されているように、原子力安全に対する予算は、平穏なときには削減されがちで、事故が起きると一時的に増えるが、しばらくするとまた削減される。結局のところ我々は、過去の事故から学習することなく、性懲りもなく過ちを繰り返したのである。(12/04/05読了 13/02/10更新)