暴力団 溝口敦 新潮新書 ★★★★☆
本書は「暴力団入門」というべきもので、具体的なエピソードはあまりないが、暴力団という組織の現状について分かりやすく書かれている。暴力団は、組の名前を使って、非合法な手段(覚醒剤、恐喝、賭博、ノミ行為などの「シノギ」)によって活動資金を得ている。末端の組員は、組の看板を使わせてもらう代わりに、上層部に上納金を納める。かつてバブル時代には、暴力団は地上げなどで大儲けしていた。
面白いことに、アメリカやイタリアのマフィアは存在そのものが非合法なのに、日本では暴力団の存在が法的に認められている。1992年には、暴力団の存在を認めた上で「暴力団対策法」が施行されたが、結果的に警察と暴力団は持ちつ持たれつの関係になってしまい、20年経っても暴力団はなくならなかった。
しかし現在では、暴力団の末端組員は困窮し切っているという。それは、ここ数年の間に、各都道府県で相次いで制定された「暴力団排除条例」によるところが大きい。暴力団の組員はアパートを借りることもできないのだ。そのため、新規に組に入ってくる若者は減少し、高齢化が進んでいる。
それでも、悪い人というのは世の中に一定数存在するものである。そういうアウトローな若者は、暴力団には入らずに「半グレ集団」を形成する。オレオレ詐欺なども反グレ集団によるものが多いという。暴力団が弱体化すれば小さな犯罪者集団が増えてくるが、そのような集団には暴力団排除条例は適応されないのだ。こうして近い将来、暴力団は四散し、マフィア化への道を辿るというのだ。
著者は山口組ウォッチャーのジャーナリストで、組員に背中を刺されたこともあるという。何であれ、命を賭して仕事をするというのはやはり凄いことだ思う。(12/06/06読了 13/02/10更新)