読書日記 2012年

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名著講義 藤原正彦 文春文庫 ★★★★☆

本書は、著者が指定する文庫本を毎週一冊読んできて、それについて毎回ディスカッションするという、いささかハードなお茶大の名物ゼミをまとめたものである。

藤原正彦は、思想家としては三流、数学者としての実力は未知数であるが、文章家としては超一流である。天才的といってもいい。まるで美しい数学の証明を見るように、簡潔にして要を得ており、全く無駄がない。文章の濃度が濃いのだ。だから、文庫本とはいえ、なかなか読みでがある。

著者の膨大な読書量には圧倒される。しかしその割には、彼の思想は、バランスを欠いた狭隘なナショナリズムに過ぎない。江戸・明治期の日本と、昭和前期の日本を一緒くたにして、何でもかんでも礼賛すればいいと言うものではない。二言目にはGHQや日教組の陰謀などと言い出すところにも閉口する。まぁこれは、彼の欧米に対するコンプレックスの裏返しなのだろう。もっと下の世代は、そんなに肩肘張って頑張らなくても、日本の良さを十分知っていると思う。

でも、そんな心配をよそに、十代の女子学生たちの反応が素晴らしいのだ。著者が、右だの左だのと古い人々の頑迷な思考パターンに捕らわれている間に、彼女たちはそれを軽やかに飛び越え、もっとずっと先に行っている。

このゼミで取り上げられた11冊は、以下の通りである。青帯の岩波文庫を主とした重厚なラインナップだ。その他にも、面白そうな関連書籍が山ほど出てくる。恥ずかしながら私は、まだ『きけ わだつみのこえ』しか読んだことがない。著者の主張を割り引いて読めば、本書は、とても秀逸なブックガイドだと言える。大事なことは、読んで、自分の頭で考えることである。

最後にお茶大での最終講義が収録されている。私も拝聴させていただいたが、改めて読み直してみると、とても良い。数学と文学との間に架かる橋を行ったり来たりしてきた藤原正彦は、人生を楽しむことにかけても天才なのかもしれない。(12/10/20読了 13/02/13更新)

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