ハーバード白熱日本史教室 北川智子 新潮新書 ★★★☆☆
さしずめ、「若き美人歴史学者のアメリカ」。歴史学者といっても、もとはカナダの大学で数学と生命科学を専攻する留学生だった。それが、ひょんなことで大学院で日本史を専攻することになる。学位取得後、首尾良くハーバード大学にポストを見付けるが、ハーバードの東アジア学部は不人気で、前任の先生の講義には受講者が2人しかいなかった。何も期待されていなかった初年度の「Lady Samurai」の講義は、予想に反して16人の学生を集めた。それだけでもニュースだったのに、翌年は驚異の100人超え。3年連続ティーチング・アワードを受賞、「キュー」と呼ばれる先生の通知票でも抜群のスコアを収め、3年目にはなんと250人もの受講者を集める名物講義になってしまったという、まさに飛ぶ鳥も落とす勢いのシンデレラ・ストーリーである。まぁ、自慢話といえばそうかもしれないが、若いから許す。
授業は、講義室でスライドを見ながら受動的に話を聞くのではなく、グループでプレゼンしたり、映画を作ったりといった「アクティブ・ラーニング」である。実際、学生にとってこういう授業は、楽しくて印象に残るだろう。でも、なかなか真似のできるものではない。それを英語で行うのだから、大したものだ。
著者が最初に大学院で受けた日本史の授業は、ひたすらサムライを賞賛するマニアックなものだったという。欧米人から見た日本史なんて、遠い国のエキゾチックなお伽話に過ぎない。だから、アメリカ人や、様々な国からの留学生に対して、日本人が日本史を教えることは大いに意味があると思う。
著者が教育者として大成功していることは間違いないが、研究者としてはどうだろうか?言われてみれば、日本史に限ったことではないが、歴史上の人物はほとんどが男である。だから、女性の視点から中世の日本史を見直してみるという試みは確かに面白いと思った。でも、これが日本だったら、果たして評価されたかどうか。アメリカで日本史を研究することは、史料へのアクセスの点では不利だろうが、学会の変なしがらみがなくて自由にやれる点では良いのかもしれない。紫式部は英語で Lady Murasaki だから、Lady Samurai・・・こういう英語のセンスはよく分からない。 (13/01/23読了 13/02/06更新)