世界言語地図 町田健 新潮新書 ★★★☆☆
一見『世界の言語入門』と似ているが、かなり毛色が違う。本書で取り上げられているのは、世界46の主要言語だ。既に休刊してしまったが、『フォーサイト』という国際情勢誌に連載されたものを元にしているだけに、経済的な影響力の強い大言語のみについて書かれている。オーソドックスな解説だが、言語の話だけでなく、歴史や政治についても言及されていて、これはこれで面白い。
それにしてもアジアは、言語的に見てもヨーロッパよりもずっと複雑で、多様である。ヨーロッパの言語のほとんどは印欧語族に属し、ごく例外的にウラル語族、コーカサス諸語、バスク語があるのみである。それに対し、例えばインドシナ半島5ヵ国の主要言語だけを見ても、オーストロアジア語族(ベトナム語・クメール語)、タイ・カダイ語族(タイ語・ラオ語)、シナ・チベット語族(ビルマ語)の3つの異なる語族があるのだ。
タジキスタンのタジク語とアフガニスタンのダリー語が、ペルシア語とほとんど同じというのは知らなかった。また、インドに次いで公用語の数が多い国は南アフリカで、11種類もあるというのも初めて知った。11種類のうち、英語とアフリカーンス語以外は全てバンツー系の言語(ニジェール・コンゴ語族の一部)であり、そのうちの一つは「ン」で始まるンデベレ語であり、別の一つは、吸着音があることで有名なコサ語である。
あとがきにある「世界の言語状況に関する知識は、世界情勢の正しい理解に大いに役立つ」というのは、全くその通りだと思う。民族とはすなわち言語であり、民族紛争は言語間の争いであると言ってもいい。言語を通して眺めた世界は、国ごとに一色に塗りつぶされた世界地図よりもずっと真実を表していると思う。(13/02/01読了 13/02/06更新)