読書日記 2013年

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感性の限界 高橋昌一郎 講談社現代新書 ★★★★☆

理性の限界』『知性の限界』と並ぶ「限界三部作」の完結編(?)。極端にデフォルメされた、色んな分野の「自称・専門家」が好き勝手なことを喋る仮想シンポジウムという体裁をとっている。話題が次から次へとめまぐるしく変わるが、とても読み易くて、楽しい。でも、前二冊の方が重厚で読みでがあった感は否めない。

行動経済学の話は面白かった。とりあえずふっかける、というのは古代より世界中の商売人が行ってきた常套手段だ。買い手は、頑張って値切ったつもりでも、実は相場より高い値段で買わされている。これがアンカリング効果だ。アンカリングがいかに絶大な効果を持つかは、悪名高き「マクドナルド訴訟」(ステラ・リーベック裁判)に如実に示されている。マクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買ったステラは、不注意でコーヒーを自分に向けてこぼしてしまい、大火傷を負う。ステラは、「マクドナルドのコーヒーが熱すぎた」と主張して訴訟を起こした。陪審員の出した評決は、なんとマクドナルドに5億円の支払いを命じるものだった!

似たような認知バイアスに「フレーミング効果」があるが、どうも自分には(少なくとも本書に出てきた例に関しては)フレーミング効果は効かないような気がする。カーネマンとトヴェルスキーの実験やミルグリムの服従実験は、人間行動の不合理性を表している。本書によれば、その不合理性は、脳には直感的な「自律的システム」と系統的な「分析的システム」が併存しているという「二重過程理論」によって説明される。それはまぁいいのだが、ドーキンスの「利己的遺伝子」を曲解して、「自律的システム」が遺伝子の利益を優先し、「分析的システム」が個体の利益を優先しているという解釈は、私にはこじつけにしか思えない。

全篇を通じて、「方法論的虚無主義者」が良い味を出している。やはり『哲学、女、唄、そして・・・―ファイヤアーベント自伝』を読まなければならない。(しかし、残念ながら絶版になっている。)(13/04/15読了 13/12/05更新)

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