読書日記 2013年

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ハダカデバネズミ 吉田重人・岡ノ谷一夫 岩波科学ライブラリー ★★☆☆☆

ハダカデバネズミ Heterocephalus glaber は、哺乳類の中でほとんど唯一、真社会性をもつ(ハダカデバネズミ以外では、近縁のダマラランドデバネズミのみである)。つまり、ハチやアリと同様に、女王を頂点とする厳格なカースト制が敷かれていて、繁殖に関わることができるのは女王と数匹のオスのみである。

ハダカデバネズミはその他にも、極めて興味深い特徴をもつ。まず、齧歯類の中で飛び抜けて寿命が長い。野生でも平均して30年ほども生き、これはその身体のサイズから予想されるよりも10倍以上も長生きである。また、地下にトンネルを掘って暮らすため、7%という低酸素の環境に適応している。さらに興味深いことに、決して癌に罹らない。たとえ腫瘍を移植しても、癌にならない。

そんな摩訶不思議な動物なのであるが、この本の説明は丸っきり物足りない。この内容でこの値段は高すぎる。molecularな話は一切出てこないし、野生での生態についての解説ももっと欲しかった。著者は心理学者なので、遺伝学や生化学や生理学のことはよく知らないのかもしれないが、この動物にまつわる面白いネタはもっとたくさんあるはずだ。もっとも、ハダカデバネズミのゲノムは2011年に解読されたので、その遺伝学はまだ始まったばかりなのかもしれないが。

著者は、ハダカデバネズミを用いて、音声コミュニケーションの研究をしている。この動物の鳴き声をいくら解析ししたところで、ヒトの言語の起源については何も分からないだろう。真社会性動物のコミュニケーションという意味では面白いが、ハダカデバネズミの鳴き声が哺乳類の中でとりわけ複雑というわけでもない。「肉ぶとん」などのカラー写真はとても印象的。(13/06/26読了 13/08/07更新)

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