イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 内藤正典 集英社新書 ★★★★☆
これはもう、正論過ぎてグウの音も出ない。最近、こういうまともなことを言ってくれる大人が少なくなったように思う。
思えば2003年、米軍によるイラク空爆のとき、私はアメリカにいたのだったが、激しい憤りと、心臓をえぐられるような無力感を感じたものだった。
それから12年が経ち、地球はめちゃめちゃになってしまった。いわゆる「テロ」や国家による虐殺があまりにも多すぎて、怒りや悲しみの感覚が麻痺してしまった。
今や中東は、最悪といっていいほどの混迷に陥っている。21世紀になって人類は、その野蛮さを増すばかりである。
いくら「イスラーム国」が理解不能に見えても、事態を好転させることができるのは、対話しかない。
それは、ただの絵空事ではない。驚くべきことに著者らは、2012年に、アフガニスタンのカルザイ政権の幹部とタリバンの幹部とを同志社大学に呼んで、討論会を主催しているのである。それは私学だから可能だったということもあるだろうが、高名なイスラム法学者であるハサン中田考先生が、アフガニスタンに赴いてタリバン幹部を説得したのだという。
「イスラーム国」は、西欧が押しつけた「領域国民国家」へのアンチ・テーゼである。もはや、軍事力の行使だけでは、世界の紛争は解決できない時代になった。その蛮行を止めさせる方法は、イスラム法に基づき、『クルアーン』や『ハディース』に対する不寛容な解釈を糺すことしかないだろう。(15/05/06読了 16/04/03更新)