読書日記 2015年

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一神教と国家 内田樹・中田考 集英社新書 ★★★☆☆

ちょっとウチダ先生が喋りすぎじゃないかなぁ。もっとハサン中田先生にイスラーム世界の内側について熱く語って欲しかったところだ。ここはやはり、最近出版された『カリフ制再興』を読まねばなるまい・・・。

イスラームほど急速に伸張した勢力というのは、人類史上、他にアレキサンダー大王の遠征とモンゴルしかないのだ。
で、世界16億のムスリムよ立ち上がれ、というのだが、インドネシアもイランもトルコもスーダンも全部ひとまとまりになるというのは、いささか無理があるような・・・。
でも、アラビア語を母語とするアラブ世界くらいは、統合されてしかるべきという気がする。(ただし実際には、シリアのアラビア語とエジプトのアラビア語とモロッコのアラビア語とでは、相互理解ができないほど異なっていて、別言語と見なすべきものだが。)
確かに、サウジアラビアの富が3億5千万の人口を擁するアラブ世界に再分配されれば、米中をはるかに凌ぐ巨大な勢力圏が出現するであろう。なぜそうならないのか?それは、イスラーム世界の支配層が分断の恒久化を図っているからに他ならない、と中田先生は言う。

ますます混迷を極める中東情勢であるが、イスラーム諸国というのは、どうして揃いも揃って独裁制になってしまうのか?
2010年にエジプトで起こった「アラブの春」も、ムスリム同胞団の失政により、以前よりももっと悪い反イスラーム的独裁制に戻りそうだという。(中田先生は、ムスリム同胞団を「万死に値する」といって痛烈に批判している。)
また、2013年にシリアに行ったところ、アサド政権の支配地よりも無政府状態の紛争地帯(「イスラーム国」が出現する前?)の方がはるかに安全で自由であり、世界各地から移民がやってくるのだという。
そこで、今こそ「カリフ制」という訳なのであるが、それはアラブ諸国の独裁政権にとっては危険思想であり、到底認められるものではない。それで、カリフ制再興を発信する会議が、言論の自由が保障されたインドネシアで開かれた、というのは興味深い。そうはいってもやはり、インドネシアはイスラーム世界の辺境なので、そこからカリフ制再興運動が盛り上がっていくのは難しいようだが・・・。(15/05/03読了 15/05/04更新)

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