読書日記 2015年

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週末ベトナムでちょっと一服 下川裕治 朝日文庫 ★★★☆☆

ベトナムのイメージは、世代によってかなり違っていそうだ。若い女性にとってのそれは、お洒落な雑貨や、生春巻きに代表されるヘルシーなベトナム料理かもしれない。しかし、もはや忘れられかけているが、ベトナムはまぎれもなく社会主義国なのである。
団塊の世代より上の人たちにとってのベトナムは、どうしても「ベトナム戦争」というフィルターを通したものになってしまう。筆者は、ベトナム反戦運動をリアルタイムで体験した世代だ。33万人もの人が国会を取り囲んだというから、あの時代の高揚感というのは、現代からは想像もつかないものだろう。だが、サイゴンが陥落し、ベトナム戦争が終結したのは今から40年も前のことなのだ。

ベトナム戦争に関して、私は書物から得た知識しかないが、それはアメリカ帝国主義からの解放だと思っていた。ついに民族の統一を成し遂げたのだから、さぞかしベトナム人は誇りに思っていることだろう・・・と思いきや、それが必ずしも一枚岩ではないらしいのだ。
ベトナムはただ、南北に長いだけではない。南の人は、「北に負け、北に支配されている」と感じているという。曰く、そもそもベトナムは、三百年前から南北に分かれていた。もし、ベトナムが分断されたままだったら、今ごろ南ベトナムは、韓国くらいには発展していたかもしれない──。考えてみれば、サイゴンがホーチミン・シティと改名されたこと自体が、「北による南の支配」を表しているではないか。

本書はただの旅エッセイではない。興味深いのは、団塊の世代が抱くベトナムのイメージと、実際との乖離を描いた第4章である。「フランシーヌの場合」という歌は知らなかったが・・・。一方で、「ただ路線バスに乗るだけ」のような、わざとらしい(エッセイを書くためだけの)旅は、つまらない。

ベトナムは、行こう行こうと思いつつ、未だに足を踏み入れていない国の一つだ。でも旅は、色んなことを知ってから行った方が断然面白く、風景も違って見える。
ベトナムの歴史はもちろんのこと、少しベトナム語を囓ってから訪れたいものである。(15/09/27読了 15/12/16更新)

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