せいめいのはなし 福岡伸一 新潮文庫 ★★★☆☆
福岡ハカセと内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司の4人の論客(?)との対談集。毎度のことながら、対談集を読む暇があったらその人の著作を読むべきだと思うのだが、最近はどうしてもこういう軽めの本に流れてしまう。本書は、著者の代表作である『動的平衡』が下敷きになっている。でも、対談集を読むと、他の色んな本を読みたくなるから、ブックガイドとしては有用かもしれない。
「動的平衡」からトロブリアンド諸島の「クラ交換」をイメージして、経済学の話にもっていくあたりは内田センセイの面目躍如である。それはただの比喩に過ぎないのだが、動的平衡という概念を拡張することの危険性については、後ろのほうに「いいわけ」が用意されている。
川上弘美はお茶大生物学科出身である。卒論ではウニの精子について研究し、生物の教師をやっていたこともあるという。そんな彼女の小説も、読んでみようと思った。
朝吹真理子という作家のことは知らなかった。『きことわ』という謎めいたタイトルの小説で芥川賞を取っている。
養老孟司との対談が半分近くを占める。養老センセイは自宅に電子顕微鏡を買ってしまうほどの虫マニアで、前半のマニアックな昆虫の話は面白い。一方、動的平衡で「意識」について議論している下りは、いささか発散している。でもそのあとに、「なにかしゃべるときには、意味のあることをいわなくちゃ、という強迫観念がありますから」という発言があって、なるほど、対談だからといって舌鋒鋭く気の利いたことを言わなきゃならないわけじゃないのだ、と納得する。
全般的にあまり話が噛み合っていないようにも思えたが、そのユルイ感じが独特の味わいを出していてなかなか良い。(15/10/12読了 15/12/16更新)