人間の尊厳─いま、この世界の片隅で 林典子 岩波新書 ★★★★☆
この世界は、限りない悲しみと、ほんの少しの希望からできている──。
一番ショッキングなのは、硫酸で顔を焼かれた女性たちだ。こういうのは、いくら文章で説明するよりも、一葉の写真が雄弁に語ってくれる。
愛人になるのを断ったら、寝ている間に家に侵入され、顔に硫酸をかけられる。加害者は処罰されず、被害者は放置され、それどころか、「醜い」「気持ち悪い」と罵られる。辛い手術を何度繰り返しても、二度と元の顔を取り戻すことはできない。なんという不条理だろう・・・。
だが、それを知ったところで、自分に何ができるだろう?ただただ、無力感を感じるばかりだ。
どんな環境に住んでいたって、人生は思い通りには行かないものだ。そんな、自分の周囲の「半径5メートルの不条理」に対処するので精一杯。でもその外側には、目を背けたくなるような現実が果てしなく広がっているのだ。これが、21世紀の地球で起きていることだ。
目の前に困っている人がいたら、写真なんか撮るより前にまず救いの手をさしのべるべきではないか。何千枚何万枚写真を撮ったところで、世の中は変わらない。そういう風に批判することもできるだろう。
それでもなお、現実を直視し続ける著者の強さには、感服するばかりだ。(16/02/18読了 16/05/17更新)