読書日記 2016年

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人工知能は人間を超えるか 松尾豊 角川EPUB選書 ★★★★☆

今話題のディープラーニング(深層学習)についてざっくりと知りたいと思ったら、まず読むべき本。
昨今の人工知能ブームにあやかって雨後のタケノコのように出版された類書の中で、本書は一線を画している。シンギュラリティがどうのとか、将来どういう仕事がなくなるかとか、そういう(安っぽい)話題だけでなく、ディープラーニングの原理や、それ以前の機械学習の統計的手法について、教科書的に一通り概説してあるところが良い。

現在は「人工知能バブル」の様相を呈しており、1950~60年代、1980年代に続く第3次人工知能ブームである。確かに1990年代には、「人工知能」というのは、口にするのも気恥ずかしいような、昭和時代の遺物のような言葉だった気がする。
著者は、ディープラーニングは「人工知能研究における50年来のブレイクスルー」だという。
ディープラーニングが注目を集めるようになったのは、2012年に開催された画像認識の国際コンペだったというから、これは確かに新しいのだ。

ディープラーニングでは、これまで「職人技」に頼っていた特徴量の設計を、コンピュータ自らが行うことができる(「特徴表現学習」)。ただし、そのアルゴリズムは、自己符号化器で入力と出力を同じにした、多階層のニューラルネットワークに過ぎない。
それでは、一体何がブレイクスルーだったのだろうか?
本書によれば、飛躍のカギは「頑強性」だという。入力信号にノイズを加えて、鍛え上げるプロセスが必要だというのだ。そしてそれが可能になったのは、単純に、コンピュータの性能が向上したからだ。
だから、なにか画期的な新発見があったというよりは、一種の力業なのである。

機械翻訳は、今日でもある程度は成功しているが、まだまだ実用にはほど遠い。
例えば、「僕はウナギだ」をGoogle翻訳にかけると、"I am U Nagi."となる。
なるほど、これが「私はウナギの蒲焼きを注文するつもりだ」という意味であることをコンピュータに理解させるためには、フレーム問題や記号接地問題といった難問を解決しなければならず、そしてそのためには、人工知能が身体性を持たなければならないわけだ。

著者は、本書をわずか2ヶ月で書き上げたというからすごい。
人工知能学会の学会誌の表紙が萌え系のイラストになって物議を醸したことがあった(こちらの記事を参照)。そのときの編集委員長も著者だったというから、相当に攻めている。(16/10/24読了 17/05/17更新)

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