読書日記 2016年

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週末沖縄でちょっとゆるり 下川裕治 朝日文庫 ★★★★☆

沖縄は、人類学的・言語学的に見て非常に興味深いエリアなのだが、リゾートアイランドのイメージが強すぎて、旅の目的地としてはどうも敬遠してしまう。しかし、琉球弧の先には台湾・フィリピン・インドネシアがあって、沖縄は東南アジアへと繋がっているのだ。
本書が世に出たのは2014年だから、ここに描かれているのは現在の沖縄の姿である。沖縄は、まだ旅人が旅人でいられるほどには、アジア的であり続けている。

2000年ごろから、バブルのように沖縄ブームが湧き起こった。そう言われてみれば、2000年には沖縄サミットが開催され、首里城をあしらった2000円札も発行されたし、その翌年に放送された「ちゅらさん」は流行った気がする(見たことはない)。
その沖縄ブームの火付け役となったのは、1998年に出版された、下川氏による著作『好きになっちゃった沖縄』だったという。
だが私にとっての沖縄のイメージを決定づけたのは、1995年、日米地位協定の見直しを求めて8万5千人もの民衆が結集した、県民総決起大会の様子だった。

リゾートアイランドでもマリンスポーツのメッカでもない沖縄を考えたとき、どうしても避けて通れないのは基地問題である。
第4章「琉球王国と県庁」は考えさせられた。
フィリピンでは、米兵がたびたびフィリピン人民軍に殺害され、結果的に米軍は撤退することになった。もちろん暴力を推奨するわけではない。しかし、アジア諸国で良くあるように、たとえば米兵に対して二重価格を設定したらどうか?
だが沖縄には、「いちゃりばちょーでー」(出会えば皆兄弟)という言葉がある。沖縄人は、米軍基地には反対しても、米兵を憎んではいないのではないか。沖縄は、米兵にとって居心地の良い場所なのではないか・・・。

資源のない琉球王国の経済は、中国への朝貢貿易によって成り立っていた。沖縄は明治12年の琉球処分によって日本の版図に組み込まれたことになっているが、清はそれを認めていなかった。日清戦争で清が負けたことにより、沖縄が日本領になることを正式に認めざるをえなくなったのである。
沖縄は、カタルーニャやスコットランドと比べてずっと最近になって併合されたのに、沖縄独立という話は一向に現実味を帯びてこない。
日本・中国・アメリカという大国に翻弄され続ける沖縄。その生きる道は、今も昔も悩ましい。

本書は、下川氏の著作としてはボリュームが少なく、後半3分の1は他の人の原稿を寄せ集めたものである。
かつて、ベトナム戦争の出撃拠点となったコザでは、一晩でドラム缶一杯ものドル札がたまったという。
・・・という話は面白かったが、第9章は蛇足。こういう観光案内みたいなのは要らない。(16/11/30読了 16/12/12更新)

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