読書日記 2017年

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アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか 斉藤康己 ベスト新書 ★★☆☆☆

2016年、チェス、将棋に続いて囲碁の世界でも、遂にコンピュータがプロを打ち負かしたというニュースが世界を駆け巡った。
でも個人的には、このニュースのどこがそんなに凄いんだろうと思った。
オセロゲームの終盤を考れば、あらゆる可能性を調べ上げて、最善手を見つけ出してくるコンピュータのほうが強いに決まっている。同じように、将棋や囲碁のような(ルールが)シンプルなゲームでは、コンピュータの性能が向上すれば、いつかは人間よりも強くなるのは当然ではないか。

実際のところ、囲碁の複雑性は、単純に盤面の大きさに起因する。囲碁の可能なゲームの総数は10360もあり、オセロ(1058)、チェス(10123)、将棋(10226)と比べても圧倒的に大きい。
本書によれば、アルファ碁とは「畳み込みニューラルネットとモンテカルロ木探索をうまく組み合わせて高速の計算機を何台も連携させた、ハードウェアの上で実現した囲碁プログラム」ということだから、要は力業プラス技巧である。それによって、人間の思考についてなにか新たな発見があったわけではない。
だから、アルファ碁は「どのようにして」(how)人間に勝てたのか、は説明できても、「なぜ」(why)勝てたのかは本書のどこにも書いていない。そこはブラックボックスで、誰にも分からないのだ。

もっとも、アルファ碁は人類には思いもよらないような「妙手」を打ってくるらしいから、そういう意味では確かに興味深い。
でも、そのアートを鑑賞できるようになるためには、かなり囲碁に精通していなければならないだろう。
むしろ、極めてシンプルなルールから生成される囲碁や将棋が、人類が何百年もかけても解明できず、多くの人を人生を賭けるに足ると思わせるほどに魅了する、絶妙な深遠さを孕んでいることが驚きである。

本書は、機械学習の教科書的な説明に、Natureのアルファ碁の論文(Nature 550: 354–359, 2017)について、論文を読めば分かるような(まぁ、読まないけどね)表層的な解説を加えただけで、「誰にでも書ける」類の本である。
最終章の「人工知能が人類を滅ぼすなんてことはない」という議論も、アルファ碁とは関係がなくいかにも取って付けたような話で、ありきたりの感は否めない。(17/06/06読了 17/11/07更新)

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