地を這う祈り 石井光太 新潮文庫 ★★★★★
殴られ、血まみれの姿で物乞いをさせられるストリートチルドレン。マフィアに手を切断された少年。下半身を露わにしたまま路上で死んだ、知的障害のある売春婦。シンナーを吸い、新聞紙を食べる子供たち。一皿20円、蛆が蠢く、残飯を寄せ集めたスラムの露店の食事・・・。
私たちと同じ時代を生きる、人々の姿だ。
そういう現実から目を背け、綺麗なものだけを見て生きていくこともできるだろう。
そうではなくて、こういう人たちがいることを心の片隅で気にしながら、日常を送ることもできるだろう。自分は後者でありたい、と思う。
しかし一方で、これらのショッキングな写真をいくら凝視したところで、それが一体何になるのだろう、とも思う。
自分にはただ、「こういう環境に生まれてこなくて良かった・・・」と安堵することしかできない。なにせ、自分の身の回りの小さな問題に対処するので精一杯なのだから。
「安全な場所でふんぞり返って、ケチや論だけをでっち上げている人間にだけはなりたくない」。
実際のところ、部外者がスラムの奥深くに分け入っていくのは、危険を伴う。一介の旅人が、物見遊山の気分で行ける場所ではない。
著者は危険を冒して、隠蔽された、誰も見たくない世界の現実を切り取ってきて、白日の下に晒す。
そんなことをしても、世の中はなにも変わらないかもしれない。
それでもなお、答えのない問題を提起し続ける著者は、実に偉大だと思う。(17/08/20読了 17/10/15更新)