読書日記 2018年

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我々はなぜ我々だけなのか 川端裕人、海部陽介 監修 講談社ブルーバックス ★★★★☆

我々はなぜ我々だけなのか──
というと、古代DNAの研究から進展著しいネアンデルタール人の話かと思うが、さにあらず。
本書で扱っているのは、化石を掘って骨や歯の形を比較するという「古典的」人類学である。近年、その古典的人類学の世界では新発見が相次ぎ、きわめてホットで現代的な分野になっているのだ。とても勉強になった。

本書の登場人物は、ジャワ原人、「ホビット」ことフローレス人(Homo floresiensis)、そして台湾沖の海底から発見された澎湖人である。
本書では、これらを「アジアの原人」と総称している。
だが、本書にも書いてある通り、猿人→原人→旧人→新人という「定向進化説」は誤りである。
そもそも、「原人」「旧人」などという分類群も定義も存在しない。日本だけで使われている俗称である。
だから、「ジャワ原人」「北京原人」(どちらも Homo erectus)という人口に膾炙した固有名詞はさておき、一般名詞として「原人」という言葉を使うべきではない、と思う。

ジャワ原人が5万年前まで生き延びていたとは知らなかった。
ジャワ原人は100万年もの間ほとんど形態が変化せず、スティーブン・ジェイ・グールドの「断続平衡説」を支持する格好の例だと見なされていた。ところが、そのジャワ原人も変化していた・・・という(むしろ当たり前の)ことが、最近明らかになったという。結論は地味かもしれないが、人類学や古生物学の研究がどのように進められていくかがよく分かる好例である。

著者は発掘現場にも足を運んでいるが、今、インドネシアがアツい。
ジャワ原人の「聖地」、ジャワ島中部のサンギランは、世界遺産にも登録されている。
私はソロにもラウ山(未登頂)にも行ったのに、なぜかサンギランをスルーしてしまった。ここは、フローレス島と一緒に、是非とも訪れてみたいものだ。(18/03/16読了 20/01/18更新)

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