読書日記 2018年

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中東から世界が崩れる 高橋和夫 NHK出版新書 ★★★☆☆

本書曰く、中東に「国」と呼べるものは3つしかない──イランと、トルコ、そしてエジプトである。エジプトについてはよく分からないが(現代エジプトは古代エジプトとは断続しているのではないだろうか)、トルコはオスマン帝国の、そしてイランは数々の王朝が勃興したペルシア帝国の直系の後継者である。とりわけ、イラン人は誇り高き民族であり、中東版「中華思想」とでも呼ぶべきものがある。同じイスラム教徒であっても、遊牧民だったアラブ人のことを低く見ているという。

それに対し、アジアのアラブ圏の国々──とりわけ、中東の盟主のような顔をしてふるまっているサウジアラビアなぞは、「国もどき」に過ぎない。イランはイスラム国家だから国民生活には様々な制約があるが、少なくともサウジアラビアに比べれば、はるかに民主的なのである。
にもかかわらず、アメリカがイランを「悪の枢軸」呼ばわりする一方、サウジアラビアを同盟国(実際には属国)扱いしている理由は、言うまでもなく「カネ」である。そして、サウジアラビアがアメリカに追従する理由は、(北朝鮮と同様に)単純に体制維持のためである。ビン・ラディンが怒るのも無理はない。
サウジアラビアが、それでも国民の不満を押さえつけておけるのは、オイル・マネーをばらまいているからだ。そもそもサウジ人は働かないし、税金も払わない。これは明らかに不健全な状態である。

本書はまず、2016年1月のイランとサウジアラビアの国交断絶について、その背景を解説する。これは、シーア派とスンニ派の間の宗教対立などという単純なものではない。
そして、それをふまえて、中東が今後どうなっていくかを論じている。イランがアメリカなどと交わした歴史的な核合意によって、イランの国際社会への復帰が認められた。これからイランの復活が始まる──。
だが、アメリカは平気で約束を破る国である。トランプ大統領は2018年5月、核合意からの離脱を一方的に宣言した。
最近、イスラーム国への対応やサウジ人ジャーナリスト殺害事件などにより存在感を増しているのは、トルコであろう。しかし本書では、トルコについてはほとんど触れられていない。

アメリカの場当たり的な政策により、いまや中東の秩序は完全に崩壊してしまった。特に、シリア、イラク、イエメン、アフガニスタンはめちゃくちゃといっていい状況である。
このうちシリアとイラクについては、もともとそんなところに国はなかった。1916年、オスマン帝国の分割を協議したサイクス・ピコ協定によって、強引に引かれた国境線によって分割されたものだ。だから長い目で見れば、このあたりは一旦まっさらにして、国境線を引き直したほうがいいのだ。
ただ、ここにはクルド人がたくさん住んでいて、そうするとトルコもイランも絡んでくるから話はややこしい。(18/12/27読了 19/01/20更新)

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