素潜り世界一 篠宮龍三 光文社新書 ★★★☆☆
息を止めてどれだけ水中に潜っていられるかを競う、フリーダイビングという競技。
ひとことでフリーダイビングといっても、さまざまな競技がある。
まず、フィンのあり・なし、長く泳ぐか・深く潜るかで4パターンある。
エレベーターのような機械に乗って下降していく謎の競技もある。そして、ひたすら水中で息を止めて耐えるだけという、何が楽しいのかわからない地味すぎる競技もある(Static apnea、現在の世界記録は11分35秒)。
著者は、フリーダイビングの「花形」、フィンありでどこまで深く潜れるかを競うコンスタント・ウィズ・フィン(Constant weight with fins)の日本記録保持者である。(著者が指摘するように、競技名のわかりにくさがメジャー化を妨げている要因の一つだろう。)
その記録は、115mという驚くべきものだ。本書の出版時で、110mを超える深みに到達した人類は、歴史上まだ7人しかいない。(現在の世界記録は、ロシアのAlexey Molchanovによる130m。)
フリーダイビングは、デス・ゾーン(あるいは神々の領域)に分け入っていき、死ぬ前に還ってくるという点で、8000m峰の無酸素登頂に似ている。
でも、100mまで潜ったとしても、戻ってくるまでに3分程度しかかからないという。案外、苦しさは感じないのだろうか。
呼吸を止めた状態で見る、水深100mのグラン・ブルーとはどんな世界なのか?見てみたいとは思うけれども、まったく空気のない世界には恐怖しか感じない。
深く潜ったときに、人体がどのような反応をするかは興味深い。脳、心臓、肺など、生命維持に必須の器官に血液が集まってくる、ブラッド・シフトという現象が起きる。逆に指先は、血の気が引くように冷たくなるという。
脳は大量の酸素を消費する器官だから、水中では大脳新皮質のスイッチを切り、小脳や脳幹だけが働いている状態にする。そんなことが本当にできるのかは不明だが・・・。
謙虚にならないと、海の神様はほほえんでくれない──というのはいい話だ。
ただ後半は、説教臭い話や、沖縄に世界選手権を招致したときの確執など、愚痴っぽい話が多かったような。(19/03/01読了 19/04/14更新)