読書日記 2019年

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日本人は何処から来たか 松本秀雄 NHKブックス ★★☆☆☆

著者三十数年来の研究の集大成である「日本人バイカル湖畔起源説」について、一般向けに解説した本。
日本人の起源論は、誰もが興味のある話題だ。ブリヤート人の住むバイカル湖畔が日本人の源郷だとするこの説は、NHKスペシャルでも取り上げられたくらいだから、かつては人気があったのだろう。だが、現在では、この説は完全に否定されている。

これまで人類学の主流であった骨の形態学的な計測値ではなく、遺伝学的な証拠を用いたことをウリにしているので、なにやら正しそうに思えるかもしれない。
しかし、著者は法医学者であって、人類学者ではない。著者が用いたデータは、Gm型と呼ばれる血液型の頻度分布であり、DNAの配列ではない。
Gm型は、血液サンプルに対して「血液凝集阻止試験」を行うことで決定できる。サンプル数は不明だが、世界各地のさまざまな民族集団から多数の血液サンプルを集め、それぞれのGm型を決定して、民族ごとにその頻度分布を集計するのだ。当時アクセスが困難だったソ連の少数民族を含め、これほど多くの民族集団から血液サンプルを収集した著者の情熱には脱帽する。

Gm型の頻度分布を世界地図上にプロットしてみると、印象的なパターンが現れてくる。
著者は、アジア人の頻度分布のパターンは北方型と南方型に綺麗に二分されること、アイヌ人と琉球人を含む日本人は比較的均一なパターンを示し、どちらも北方型に属すること、アイヌ人および琉球人のパターンはブリヤート人と酷似していることを指摘し、これらのことから「日本人バイカル湖畔起源説」を提唱する。
しかし、日本人のパターンがブリヤート人と似ているのは、偶然の一致にすぎない。単一の遺伝子座の、しかもハプロタイプの頻度分布のデータだけから、遺伝的な近縁性を議論することはできないのだ。

本書は1992年に出版されたものだが、わずが30年ほどの間にわれわれの知識はこんなにも増えたのか・・・と驚嘆するほど、ひどく古典的な印象を受ける。「白人種」「黒人種」などという言葉が普通に用いられているのも違和感を覚える。
本の構成に関して言えば、読者が知りたいのは日本人の起源についてなのに、最初の数章で退屈な血液型の説明が延々と続いて辟易する。しかも、その説明がすこぶるわかりにくい。
せっかくブリヤート人を訪ねる印象的なエピソードがあるのに、もうちょっと全体の構成を考えるべきだったのでは・・・。(19/07/07読了 19/07/15更新)

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