物語 ウェールズ抗戦史 桜井俊彰 集英社新書 ★★★☆☆
ウェールズに関する書物はあまりない。
なるほど、ウェールズはイギリスを構成する4つの地域の一つであり、サッカーでも独立したチームをもつが、スコットランドに比べると随分と影が薄い。
そして、ウェールズのシンボルであるレッド・ドラゴンは、ユニオンジャックには反映されていない。もっと影が薄そうな北アイルランドは入っているのに。
ローマ帝国によってブリタニアと呼ばれていたブリテン島は、その名の示す通り、ブリトン人、つまりケルト人の島だった。
そこへ、ゲルマン民族の大移動によって、アングロサクソン人が押し寄せてきた。ブリトン人はウェールズの地へと追いやられていった。
1066年のノルマン・コンクエストによって、ブリテン島の支配者はノルマン人(フランス人)に移った。その結果、ウェールズ人の被支配はいよいよ強まることになった。
そして、エドワード1世がウェールズを征服。1301年、エドワード1世が息子に「プリンス・オブ・ウェールズ」(ウェールズ大公)の称号を与えてから、ウェールズは二度と再び独立を取りもどすことはなかった。
現在でも、イギリス王室の皇太子はプリンス・オブ・ウェールズと呼ばれている。つまり、ウェールズ人は被支配者の立場に置かれているのだ。
そもそもウェールズという言葉は、古英語で「よそ者」を意味するWealasから来ている。ウェールズ人は、自らのことをCymry(カムリ)と呼ぶ。
ウェールズにとって不幸だったのは、イングランドという世界史上最強(最凶)の国に近すぎたことだろう。
だが、これほど長きにわたって被支配の立場に置かれながら、同化することなく、未だにアイデンティティーを保っているというのは驚異的である。それどころかウェールズ人は、現存するケルト系民族(ウェールズ人、スコットランド人、アイルランド人、そしてフランスのブルトン人)の中でも、最もよく自らの言語を保持しているのだ。
そのようなわけで本書も、紙面の大部分は、ヨーロッパの暗黒時代であった中世史に費やされている。
だが、さすがに尻切れトンボの感が否めない。近世以降で、もうちょっと書くことはなかったのだろうか。
それから、登場人物が覚えにくく、読みにくい。文体も好みではなかった。(19/07/29読了 19/09/16更新)