世界遺産 中村俊介 岩波新書 ★★★☆☆
2019年11月現在、世界遺産登録件数は1121件に及ぶ(UNESCOのサイト)。千件を超えてなお年々増殖を続け、もはやインフレ化している。
確かに、行ってはみたものの、「これが世界遺産!?」と首を傾げたくなるものもある。
でも、世界遺産の醍醐味は、「世界にはまだまだ訪れるべきところがある」と思わせてくれるところではないだろうか。それは、もはや地球上から秘境が消滅したということの裏返しなのかもしれないが。
巷には「世界遺産検定」なるものが存在するらしいが、本書はそのためのテキストでもないし、ましてや世界遺産のガイドブックでもない。
では何かというと、主に日本の世界遺産について、登録へと至る紆余曲折、悲喜こもごもを取材したジャーナリスティックな本である。
世界遺産は、まずもって「顕著な普遍的価値」(Outstanding Universal Value)を持たなければならない。しかし、ピラミッド、マチュ・ピチュ、万里の長城、タージ・マハル・・・といった、誰がどう見ても顕著な普遍的価値を持つ物件は登録され尽くした。
そのため現在では、厳しい審査を経て登録を勝ち取れるかどうかは、手持ちの駒からいかにしてストーリーを紡ぎ出すかというプレゼン力にかかっているのである。まるで、オリンピックの招致活動を見るようだ。
それも世界遺産の一面であることは確かだろう。でも、『世界遺産』というタイトルにしては内容が物足りないと思った。(19/10/21読了 19/11/17更新)