酒の話 小泉武夫 講談社現代新書 ★★★★☆
ワインを筆頭に、ビール、ウイスキー、日本酒の本は数多くあれど、本書は世界中のあらゆる酒について、文化誌とサイエンスの両面から縦横無尽に論じている。コンパクトながら情報満載。
酒には醸造酒(ワイン、ビール、日本酒、紹興酒など)と蒸留酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、焼酎など)がある、といった基本的なことから、アメリカの禁酒法の話、聞き酒のやり方まで、酒にまつわるあらゆる話題がギッシリと詰め込まれている。
「遊び酒」という章が面白かった。
日本には昔から「酒合戦」という酒の飲みくらべ大会があって、その記録が残されている。例えば文化14年(1817年)に行われた酒合戦では、優勝者はなんと一斗九升五合(約35リットル)もの酒を飲み干したという。
時代は下って昭和32年、灘の祭りで日本酒の早飲み大会が行われ、優勝者は一升を3分30秒で片付けたとか。今では考えられないが、そんな大らかな時代もあったのだ。
それから、茶道・華道・香道と並んで、かつて「酒道」というのがあったらしい。ただし、その作法は今や失われてしまっている。著者は酒道を復活させようという夢を抱いていたらしいが、どうなったのだろうか。
本書は1982年の出版だから、もはや古典といえる。サイエンスの側面、特に「酒飲みの生理学」の章に関しては、今見るとかなり素朴なことが書かれている。だが、文化誌的な側面については、今でも十二分に読む価値がある。(19/11/18読了 20/03/17更新)