ネコがこんなにかわいくなった理由 黒瀬奈緒子 PHP新書 ★★☆☆☆
肝心の「ネコがこんなにかわいくなった理由」について、一言も触れられていない。
最後の最後に、取ってつけたような「ネコがこんなにかわいくなった理由」という節があるが、ここにも何も書かれていない。
ネコが家畜化される過程でどのような遺伝的変化が起きて、ネコはこんな風になったのか・・・という話を期待していたのだが。(まぁ、答は何もわかっていないのかもしれない。)
編集者のセンスを感じさせる秀逸なタイトルだが、なんだか欺されたような気分だ。
ネコは、イヌに比べて、系統間の形態の違いが小さい。これはなぜなのか、以前から疑問に思っていた。
この点について、本書では
イヌは使役動物としてさまざまな用途に合わせて品種改良され、大きく体型を変えたのに対し、ネコはもともと備わっているネズミを狩る能力がヒトの役に立っていただけで、それ以外の仕事には不向きだったため、イヌのような品種改良がされなかった
と説明されている。とすると、人為淘汰を繰り返していけば、トラのように巨大なネコを作ることも可能なのだろうか?
分子系統学の話は結構だが、ネコの進化を語るのに、なにもシアノバクテリアから語り起こさなくても良いのでは。哺乳類全体の系統の話も蛇足(知ってるし・・・)。
知りたいのは、ネコの起源である。
イエネコ(Felis catus)の起源はリビアヤマネコ(Felis lybica)であることがわかっているが、本書では、リビアヤマネコはヤマネコの亜種と位置づけている。
しかし、「ヤマネコ」という和名は混乱をきたす。イリオモテヤマネコとツシマヤマネコはどちらもベンガルヤマネコ(Prionailurus bengalensis)の亜種とされるが、こちらは属レベルで違う。
だから、「リビアヤマネコはヨーロッパヤマネコ(Felis silvestris)の亜種」という言い方をすべきだろう。
最終章の「保全生物学の視点から見たネコ」という話題は新鮮だった。
沖縄のやんばるや小笠原では、人が持ち込んだネコが野生化し、希少な固有種が絶滅の危機に瀕しているという。ネコは、駆除すべき外来種でもあるのだ。
蛇足ながら、一般の「人間」「人々」の意味で「ヒト」という表記を用いるのは違和感しか感じない。「ヒト」はHomo sapiensという種の和名であり、「人」とは意味が違う。(19/12/18読了 20/01/18更新)